2001年11月

「牛は近代化するか」

 もともと草食動物で、草しか食べない牛に、肉や骨などの動物性タンパクを、エサに混ぜて食べさせたら、狂牛病になりました。
 牛はエサ効率の特に悪い家畜で、食べさせても食べさせても、なかなか大きくなりません。ニワトリや豚は牛よりも成長がずっと早く、また繁殖力も強いので、同じ量の穀物を与えても食肉にするまでに期間が短くて済みます。同じ1Kgの精肉を得るのに必要なエサは、牛の場合、ニワトリや豚の約2倍必要とも言われていますから、牛はゆっくりとしか育たないのですね。育てる側にとっては効率の悪い時間のかかる動物なのです。だいいち、鳴き声からしてのんびりしています。モーー。
 そのくせ、植物性のものしか食べないとなると、きっと飼ってる人は、いつも待ちきれない思いだったのでしょう。それで、肉も与えよう、そうだ、骨も与えてみよう、とやってみたくなったのでしょう。それが騒ぎとなっている肉骨粉です。
 ところが、人間が人間の都合で牛に、トモ食いを強制した結果、牛の脳が溶け出してしまったのです。農業はあっという間に近代化しても、牛は近代化しなかったのですね。牛は変らず、むかしからの牛なのです。人間が経済効率を求めても、生身の牛には通用しなかったということです。

 永田農法という農法があります。
 スパルタ農法とか野生農法なんて呼ばれることもあるようですが、やりかたは簡単。「極力水を与えず、極力肥料も与えず。」そういう栽培法です。水も肥料もやらないで作物が育つのかって? 心配になりますよね。ところが、これが結構いけるんです。作物の原生種っていうのは、それはそれは厳しい環境で生き残ってきたものなんだそうです。だから水を控え、肥料も控えていくと、野菜もだんだんと野生化していきます。すると、トマトもキャベツもナスも糖度が上がるのだそうです。環境が厳しくなってもなんとか生き残るために、植物もエネルギーをうちに貯め込むからでしょう。
 イネの苗を育てる時にも、思い当たる現象があります。水を少なめ、肥料も少なめに育てる方が、見た目こそ、色は淡く背は低く貧弱になりますが、茎が太くなるし、なによりも根の量がぜんぜん違います。そしてぎっちりと巻きつくような根になります。肥料も水も少ないのですから、根が増えるとはちょっと不思議な感じがしますが、実際そうなります。のどが乾いて水を欲しがり、根を伸ばす・・・私はそう見ています。
 また、田植えの時も、極端に浅く、堅い田面に田植えをしています。(半不耕起栽培法)。このやり方の方が、明らかに根の量が多くなるのです。田植え直後、根を伸ばそうにも、地面がコンクリートのように固いので、イネにとっては厳しい環境です。でも、こういう厳しい環境がイネに何らかの成長ホルモンを分泌させ、イネの体を丈夫にするのでしょう。そんな研究報告もあります。
 まあ、詳しい理屈は別にして、快適な環境で、充分になんでも与え、過保護に育てると、薄くて弱い作物になってしまうのかもしれません。生命力の乏しい作物は、ちょっとした病気や虫にも負けてしまいます。
 人間も一緒ですね。厳しい環境が心と体を鍛えます。かわいい子には旅をさせよ。牛も一緒です。急がば回れ。肉骨粉を与えずに、反対に水を飲むのを制限したりしたら、かえってうまく行っていたかもしれません。
 んん? そんなわけないか。

 

 


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