「エンゲル係数」

 遠方より遊びに来た人、曰く
 「食べ物が美味しいですよね。すんごくおいしい。でも美味しいものに口が慣れると、エンゲル係数があがってしまうんですよ。ハハハハ」
 なるほど、そうだろう。そうだろう。確かにこのあたりの食べ物はうまい。自画自賛になるが、コメと酒の味は全国的に有名だし日本海も近いから魚もいい、ちょっと山に入れば、山の幸もある。もちろん、農村地帯だから新鮮な野菜はふんだんにある。これだけそろえば、うまいに決まっているのだ。
 それにしても、エンゲル係数という言葉を久々に聞いた。
 田舎で農夫をしている僕なんかより、ずっと金銭的には裕福であろう都会生活者が、「食費がかさむ」というのだ。なんだか、おかしな話だ。高給取りが食費を気にするのか。それに生活費における食費の割合なんて、そんなに大きくないように思うのだが、そんなことないのだろうか。田舎に比べ、都会で生活するとなると、食費なんかより教育費とか住宅関連費とかのほうが、もうびっくりするくらい大きいのじゃないかな。
 それで、あとになって気がついた。「食費がかさむ」って言い方は、困っているのじゃなくて、皮肉めいた言い方で、もしかするとある種の自慢なのかもしれないなって。食費が大きいってのは、むかしは貧しさの指標だったけれど、今では豊かさの指標なのかもしれない。モノにあふれた金持ち国ニッポンでは、段々と、欲しいなあと思うものが少なくなってきたし、要らなくなったものを捨てるのにもお金がかかるようになったからね。買いたい物が少なくなってきてるから、お金の使い途って、食費とかレジャーとかに向かっているのかな、やっぱり。食べたり遊んだりするぶんには、家の中に物が増えることはないから。

 
けいすう、って言葉はコメ作りの世界にもあります。茎の数、と書いてけいすうです。係数でも、計数でもないのですが、これもバランスを計る数字でして、一株あたりの茎数、という言い方をします。茎の数が多すぎても少なすぎてもいけないのです。イネは茎一本から穂は一つしか出ません。で、茎の数が多ければ、穂の数も増えておコメがたくさんとれるかというと、これがそうでもないのです。茎が増えると、逆に穂が短くなって、粒ぞろいもバラバラのコメになります。数が増えすぎると、自然に淘汰があるのです。
 バランス感覚がイネの世界にも同じようにあるんですね。
 稲刈り前に、最後の生育調査をします。
 一株から何本の穂が出ているか。その穂にはいくつの米粒がついているか。穂先についている米粒も、株元に近いところの米粒も、同じようにきちんと充実しているか。ひとつひとつの項目を、田んぼのあちこちから抜き取ってきて、数えます。
 生産者、曰く「ああ、けいすうが多くて、すこし困ってね」
 遠方より遊びに来た人、曰く
 「田んぼに吹く風って、気持ちいいねえ」
 作る人と食べる人、会話に花が咲きました。

 

 


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