2002年12月

「しの字の杉、ノの字の松」

 10月号で書いた「孤高の穂」について、たくさんの反響が寄せられました。
 野生化したイネのほうが強大な穂をつける、人間が手をかけなくてもイネは育つ、その生命力とはすごいものだ。というような話だったのですが・・・、家庭菜園をされている方より、「実は、わが家の畑でもそうだったのです。不思議だなあと思ってみてました」。または、学校の先生より「教育論のように読みました」など、感想が届きました。こちらで思ってもいないほど深い意味を見出していただき、感激しています。
 で、興にのって、今回はまたその続きのような話です。
 「森の木を想像してください。木は勝手に大きくなります。だれが木に肥料をやりますか。だれが土を耕しますか。だれも何もしません。木は勝手に大きくなるのです」
 ちょっと山へ行くと、おかしな格好に曲がった木がたくさんあります。ここは日本有数の豪雪地帯ですし、雪自体も水分を含んだどっしりと重い雪なので、その重みに耐え切れず、幼木はつぶれてしまうのです。ぐにゃりと。それでも生き残るものは生き残ります。大きな杉は根元が曲がったまま成長したので、ひらがなの「し」の字の格好をしています。最初曲がっていて、途中からまっすぐ。雪の重みで横向きに倒されても、やがては天に向かってまっすぐ上に伸びていきます。「し」の字の杉。
 直江津あたりへ行くと、海辺に松が植わっています。防風林として人間が植えたものですが、カタカナの「ノ」の字の格好をしています。葉っぱはあまりありません。冬の時期、日本海から吹き付ける風は、みぞれ交じりのとてもとても強い風です。植えられている松の大木がみな、同じ向きに斜めに「ノ」の字の姿勢でいるさまは、見上げて見る者には圧巻です。おお、全部ナナメだ! 冷たい雨風の威力をあらためて思い知ります。葉っぱも千切れて飛んでいくほどの突風でも、松は生きています。「ノ」の字の松。
 人間がつっかえ棒をしてあげるとか、「雪囲い」で雪から守ってやるとかすれば、まっすぐに育ったのでしょうが、だれもそんなことはしなかったので、しの字の杉やノの字の松になりました。でも、それが自然の姿なのでしょう。そして、厳しい自然に負けずに、生き延びたものがその姿なのでしょう。おそらく、木は硬く重く、強い木だろうと思います。
 水も肥料もなく、雑草と戦いながら生きている孤高のイネが、ひときわ大きな穂を結ぶように、曲がった杉や松にも、そんな生命力があるのかもしれませんね。森の中の木を見て、海辺の木を見て、そんなことを感じました。植物に向き合う人間として、心に留めておきたいと思います。





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