「みその世界」

 微生物との付き合いは冬になっても続いています。大好きな、とっても不思議な、おもしろい世界です。
 夏、コメヌカで田んぼの土壌微生物を増やしています。田んぼにいる土着の微生物のちからを利用して、イネの体を健康に保ったり、除草をしたりします。目には見えないものですが、大きな大きな力を持っています。
 冬、気温がさがって、今度はまた別の微生物と仲良くしています。縁は切っても切れませんね。何でしょう。そう、みその仕込みの季節なのです。
 みそを作るときに活躍する微生物は、ご存知のように、こうじ菌です。カビの一種のこうじ菌を、コメで培養増殖させたものが、米こうじ。日本の食卓の代表選手、味噌、しょうゆ、日本酒なんかを作るときには、中心となるものです。
 日本酒ですと、寒仕込みといって真冬が仕込みシーズンになりますが、みそは、もう少し期間が長くて、秋から春までのうちに・・・と割りと大雑把です。というのも、日本酒が20日〜1ヶ月で出来上がるのに対して、みそはもっと長く、半年近くかかりますし、高温多湿の梅雨の時期を過ぎなければ、どうしたって完成しません。
 同じ菌なのに、活動の期間や温度が違うって、ほんとうに不思議です。どういうことなんでしょうね。
 みその作り方なんて、すっごいシンプルなんですよ。豆を煮て、つぶしたものを、塩とこうじで混ぜるだけ。ほんとにそれだけです。ペースト状の最初のものは、甘くない(しょっぱい)栗のあんこ、って感じでしょうか。それを、あとは樽の中で寝かせておけばいいんです。私も始めて知ったときは、びっくりしました。えっ、これだけ? これだけでいいの? ほんとに?
 それで、なぜあんな複雑な味になるのかは、微生物のおかげとしか、いいようがありません。こうじ菌の一番の仕事は、炭水化物(でんぷん)を糖に変えることですが、しかしそれだけでは、ただの甘いものができるだけです。味や香りのあるああいうものにはなりっこありません。それに、同じレシピ同じ材料で作っても、樽ごとにみそはちがうんです。最初は、簡単そうに見えたけれども、実はちっとも簡単ではない。設計図どおりに建物が出来ません。
 みそを仕込むのは、生き物を育てることと同じだなあと思うようになりました。ほんとうに生き物です。双子で生まれた子供だって、くせから性格まですべて一致するなんてことはありませんよね。なんでそうかは、わかりません。
 双子の子を持つ親は、医学書を読みふけって違いの理由が何なのか、知りたいと思うでしょうか。頭で考えるよりも分析するよりも、理屈抜きで愛情をそそごうと思うはずです、相手は生き物ですから。そりゃ、樽ごとに違いがあるのはなぜなのか、理論的に研究することはもちろんある面、大事でしょう。でもそれ以上に、それぞれがもっとも美味しくなるように祈り、一生懸命に向き合うことが、ずっと大事です。そしてそれが、おもしろいんです。味わい深い、付き合いだしたらやめられない、みその世界です。
 火にかけてグラグラやったら、味も香りも飛んでしまうなんて、なかなか繊細で、かわいいやつだと思いませんか。生きている証です。

 




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