「特別な夏」

 米つくりにとって、夏はいつだって特別だ。
 この季節の天候が、お米の出来を左右する。稲は葉っぱのうえに穂を出して、モミの中にミルク状のエキスを送り込む。光合成で葉っぱに蓄えた養分を、自分の子供であるモミの中に「転流」させモミをどんどん膨らませていく。
 穂が出てから約40日。稲のすがた本体が、緑色から黄金色に変わってゆく頃、モミの中身は乳液状からだんだんと硬くなっていき、いわゆるおコメの状態へと変わってゆく。
 気温でいえば、最適気温は30度前後。イネは亜熱帯が原産ということもあり、夏が好きなのだ。
 真夏の気温が25℃を下回ったり、雨ばかり続くようだと、光合成がうまく出来ず、減収となる。昨年みたいに、梅雨が明けず冷夏だと収量はおぼつかない。
 一方、35℃を過ぎるようだと、イネも暑さでバテテしまう。人間が大量の汗をかいて、体温調節をするように、イネも根から水を吸い上げ、それを全身から蒸発させて体温維持に努めるので、とても「転流」どころではなくなる。子供に栄養を送るどころか、自分の体調を維持するので精一杯。イネの体力消耗が激しい場合、出来たお米の味・品質は低下する。高温障害と呼ばれている。
 それにしても、ここ数年の夏は、本当に暑い。7月中旬には東京で39℃を記録したらしいが、昔はせいぜい32〜34℃が最高気温ではなかったか。今年なんか35度と聞いても、あまり珍しくない。もう驚かない。日中のアスファルトの温度は50℃とも聞く。立ってるだけでもクラクラしそうな大変な暑さだ。
 新潟県内では、7月に河川の氾濫があって、大きな被害がでた。今でもこの真夏に、家の畳をはがして床下に溜まった土砂をスコップで搬出する作業が、テレビに映しだされている。三条市や見附市には日本中から多くのボランティアが応援に駆けつけて大量の汗を流しているが、復旧作業は遅々として進んでいないらしい。福井県でも大雨の浸水災害があった。罹災した人々のこの夏はどんな夏だったんだろう。どんな傷跡とどんな思い出を残すのだろう。
 わが板倉町は、河川の氾濫こそなかったものの、とても雷雨の多い夏です。ただの夕立ちは、イネの体温を下げ、人間の水回り作業を減らし、一服の清涼剤ですが、雷をともなうとなると話は別です。雷が田んぼに落ちると、半径15メートルくらいのミステリーサークルが出来ます。焼け焦げてしまうんですね。今年はミステリーサークルあちこちにたくさん見つかります。そして落雷停電の事故もありました。すぐ近所の電柱に落ちたんです。生まれて初めて5時間以上の停電を経験しました。恐いものですね。インターネットや電話・FAXも、電気なしでは役に立たず、扇風機もエアコンもとまり、冷凍庫の中身はみんな溶けました。無くなってはじめて気づくライフラインの大事さを痛感した1日でした。いつ復旧するのか、全く分からない待ち時間。5時間はとても長く感じられました。これがもし大都会であったなら、大混乱を招く大災害でしょう。電車もエレベーターも信号機もエアコンも、そして多くのコンピュータが5時間も止まったら・・・。想像するだけでもすごいことですね。
 電車もエレベータも信号機もないので、とりたてて大きな被害もなく(あ、パソコンが一台おかしくなりましたが)、むしろ静かな一日でした。今年の夏の印象的な出来事でした。   




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