「新幹線が来る」

 いよいよ新幹線が来そうです。
 いま東京と長野を結ぶ長野新幹線が、何年か先には北陸新幹線と名前をかえて金沢まで延びる計画があります。すぐ近所に上越地方の新駅が誕生し、これが出来ると東京までなんと乗り換えなしで2時間弱でいけることになります。
 ほんの10年前は東京まで特急電車で6時間もかかったことを思い出すと、新幹線のスピードには驚きです。片道2時間で行けるとなると、出張はみな日帰りが普通になってしまいますね。手軽といえばまあ手軽なんですが、出張のときには大都会で1晩泊まり、というのは、地方から上京するものにとってはそれはそれで結構いいものでありました。用事を済ませてトンボ帰りですと出張がちょっぴり味気なくなるのではと寂しい気もします。
 北陸新幹線の構想はずっと昔から、それこそ国鉄時代からあったようですが、実際に工事が始まったのはここ数年です。長野でオリンピックがあったときに突貫工事で高崎から長野まで新幹線を引きました。でもその先は手付かずだったのです。政治家と建設業者と出張族のビジネスマンには悲願であっても、運営主体になるはずのJRは、基本的には建設反対の立場だったようです。それもそのはず。長野より日本海に抜ける路線、長野−直江津間の在来線は、現在ガラガラの単線です。いつ乗っても座れないことはないし、ときにはボックスの4席を独り占めできてしまいます。僕がよく利用している駅も、無人駅か夕方6時には窓口のしまってしまう本当にのどかな駅です。主な乗客は、地元の高校生と車の運転が出来ない老人ですから、いわゆる過疎地のローカルバスと大差はありません。信越本線なんて立派な名前こそついていますが採算は赤字かもしれませんね。そんなところに新幹線を通したところでどれほどの乗客の利用が見込めるのか、出来上がった後の運営管理を担うJRが難色を示したとしても少しも不思議ではありません。
 地元板倉の山の手には、長野県から新潟に抜けてくる新幹線専用のトンネルが開通しました。世界屈指の長さのトンネルだそうです。それから新駅だってコンクリートの高架だってずいぶん出来てきました。日本列島改造論。古い言葉を思い出しました。言い出したのは、新潟出身の田中角栄さんだったでしょうか。北陸新幹線は在来線の線路をはしるミニ新幹線ではなくフル規格の高架方式の新幹線ですから、田園風景も完全に一変してしまいます。
 トンネルだってすごいし、高架のためのコンクリートや鉄筋も使う量は半端ではありません。地元では1大プロジェクト。いくらかかるのか見当もつかない莫大な公共事業です。ところがこのご時世、公共事業もかなり切り詰められているので、政治の風向きがひとたび変わると開通にこぎつける前に、中途半端なところで工事中止となってしまうことも考えられます。まあ可能性は低いでしょうが。うーん。税金はどのくらい投入されているのか、われわれが利用することでどれくらいの経済効果があるのか、子供の世代へ国債・地方債でやっぱり借金をツケまわすことになるのか。いろいろと考えてしまいます。
 開通すれば便利になるのは間違いありません。嬉しいし利用もするでしょう。ただ便利であることだけが優先する時代は過ぎました。いまは環境も考えたほうがいいし、財政だってみんなで考える必要がありそうです。田んぼの中でまだ小さなかわいいイネと、新しい巨大な建造物を見比べながら、喜ぶべきか嘆くべきか、複雑な思いが耕作します。いや交錯します。 




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