「豆にしか出来ないこと」

 大豆の収穫が終われば秋の農繁期はいちおう終わりになります。大豆という植物には、「こんりゅうきん」が存在します。根粒菌または根瘤菌。文字通り、根のあちこちにこぶのようなツブツブをつくります。
 この菌の不思議なことは、マメ科の植物に入り込んでチッソを固定してしまうということです。チッソはご存知のように気体として空気中の8割を占めるどこにでもありふれた物質です。そして植物にとっては肥料の第1の要素です。人間が生きていくのに炭水化物やたんぱく質が必要なのと同じように、植物が生きていくにはチッソが必要です。しかし植物はおろかなことに空気中に大量にあるチッソをそのまま吸収できないんですね。チッソはただとらえどころのない風となって流れているだけです。
 肥料をまくのは有機であれ無機であれ、われわれには大変な重労働です。そうしてまいている物質はなんと空気中に大量にあるチッソなんです。ああ人間もなんておろかなんでしょう。
 いま世界的な資源高にあって肥料価格も高騰しています。日本で流通している化学肥料の多くは外国産ですから、海外から重たい肥料を船で運び、陸に上げてからはトラックで運び、たくさんの運賃をかけて、高い高い重い重いといいながら、もとはタダの空気を運んでまいているんです。
 
 他の植物とは違い大豆は基本的に無肥料で栽培します。肥料を与えなくてもちゃんと育つんです。「こんりゅうきん」が大豆の根っこのすぐ隣で、空気中のチッソを植物が吸収できる形に変えてしまうからです。これはすごいです! まるで自分で肥料を作り出せるかのようです。大豆以外にもマメ科のものであればこの根粒菌と仲良くできるので、ソラマメでもエンドウでも、れんげそうやクローバーも栽培に肥料は要りません。昔は田んぼにれんげそうをまいて肥料にしてイネを育ててていましたね。
 根粒菌がなぜマメ科の根にだけ付いて、またどういう仕組みで空気中のチッソを集めることできるのかは、まだよく解明されていないそうです。これがわかって何かに応用できればノーベル賞ものの研究だと思います。
 例えば、根粒菌があらゆる作物、世界中すべての畑でつかわれれば、肥料産業はつぶれてしまうものの、食糧不足は一気に解決されるでしょう。アフリカなど途上国の多くは肥料を買うことが出来ないため、貧弱な畑しかできません。
 ノーベル賞といえば、いまから100年ほど前、ハーバーというドイツの化学者がノーベル賞を受賞しています。空気中のチッソからアンモニアを作り出したというのが受賞理由です。これは化学肥料のさきがけになりました。ドイツで初めて小麦が作れるようになった歴史的な研究です。やせた農地の多いドイツではその当時、ライ麦がジャガイモしか作れませんでした。「空気からパンを作った」と騒がれたそうです。いまの日本ではアンモニアを肥料にして小麦を栽培しても、驚きもしませんが。
 人間が科学技術をつかってチッソを有用なかたちでつかまえようとすると、高温高圧の装置が必要ですが、土の中、大豆の根っこに住み着いている菌は、常温常圧でこれをやってのけます。どうして豆さんだけ、この菌となかよしなのでしょうか。教えてもらえるならこっそり聞いてみたい気がします。
 小さな小さなマメツブのなかに、大きな自然の神秘がギュっとつまっているように見えてなりません。豆の神様ですね。 




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