「話しかけてみよう」

 これが牛や豚ならわかります。果たしてイネや野菜も人間の声がわかるのでしょうか。人間が植物と話すことは出来るのでしょうか。
 農業の現場で普段接している生き物は人間の言葉を話しません。というか、人間とコミュニケーションできるかどうかは、ありえないことのように思います。人間が、牛と会話したりイネや麦といろんなことを伝え合ったり・・・。そんなこと出来っこないと思います。
 私に限って言えば、外国語だって充分に使えないから外国人とは人間同士の会話だって成り立たないし、極端な話、日本語だっていい加減なものなので、日常の生活の中で意思の疎通がうまく出来ないこともしばしばです。
 ただ、植物との会話は全く成り立たないと感じているのかというと、実はそうではありません。例えば田んぼに出て、イネをじーっとみていると「水が欲しい」「今日は快適だ」「いや今日は暑くてかなわん」という声にならないメッセージを受け取ることがあります。もちろんイネは風に揺れているだけなので、私の思い込みと言われればそれまでですが、ときどきそんな会話のようなことが出来ることがあります。
 超能力者みたいでしょう、フフフ。
 イネの気持ちが少しわかるとなると、周りの人から驚嘆と羨望の目でみられそうですね。ところが、玄関に飼っている金魚に、エサやりをしながら一生懸命話しかけていたら、家族から嘲笑されてしまいました。このあたりが微妙です。金魚とは友達になれませんでした。私は神ではありません。
 こういうことを最近は科学的に研究している人がいるそうです。そして少しずつ解明されているのだそうです。そして分かってきている事は、どうも植物と人間でも何らかの心の交流のようなことがあるらしい、ということです。
 私が農業の世界にはいってすぐの頃、老齢の先生から「水やりをするかどうかはよーく作物を見てから決めるんだ、時間で決めてしまってはいけない」と教わりました。時間じゃなくて作物を見て決める、とすると、この先生も植物の「声にならない声」が聞けたということになります。
 それから植物よりももっと小さい生物の単位、微生物相手に音楽を聴かせる人もいました。新潟のある酒蔵なんですが、醸造・熟成する蔵の中にクラッシック音楽を流しています。まろやかな味に仕上がるのだそうです。暗くひんやりとした蔵のなかで上品なクラシックを聞いた時に、私は思わず、じゃあロックンロールを酒に聴かせたらどうなるんだろう、ジャズを聴かせて熟成させたらどうなるんだろう、と空想にふけりました。酵母菌やこうじ菌が元気になって軽快な味、鮮やかな味に育つのかなと考えたら、楽しくなりました。
 また、キュウリやメロンやかぼちゃなどのウリ科の作物は、ツルで棒にまきつく習性があります。栽培方法としては立体にしないで地面に這わせて育てる方法もあるのですが、かぼちゃなどは、ちょっと遠くに棒を立てておくと勝手にその棒めがけてツルを伸ばしてまきついてくるという説もあります。目も見えないのにかぼちゃは人の動きを見ていて、棒のありかを探っているのです。
 酵母菌やかぼちゃに比べたら、牛馬や豚はもっとずっと人間に近いです。それから果樹も人間の一生に近いくらい長い付き合いになります。和歌山でずっとみかんを育ててきたおじいさんが、死ぬ間際にありがとうと言ってみかんの樹に抱きついた、という話を先日聞きました。人間のほうじゃなくみかんの樹に抱きついた。そのおじいさんもみかんの樹ときっと心の交流があったのだと思います。
 不思議ですね。でもホントの話です。  




HOME

Copyright (C)1997-2009 Akiyama-farm. All rights reserved.

このホームページ上に掲載されているすべての画像・文書などの無断転載を禁じます。