「根も葉も切って」

 5月は田植えの季節です。
 苗代で、いろいろな管理をしながら育ててきた苗を広い田んぼに移し変える時期です。この作業は、田んぼの場合は、田植えといいますが、畑や果樹でも、苗床で育ててきた苗を広い畑や果樹園に植え替える同じような工程がありまして、移植とか定植などと呼ばれます。
 そこで問題。このときに苗をどう扱ったら、いいのでしょうか。
 苗の時期というのは人間で言えば、赤ちゃんの時期です。種まきから、発芽、発根、そして葉が何枚かひらいていく時は、温度も湿度も丁寧に管理されています。苗床の多くがビニールハウスになっているのは、人間の赤ちゃんが保育器に入っているのと同じようなものかもしれません。ほんのちょっとの暑さ寒さで、極端に弱りますし、簡単な病気で死にます。
 本田に(田植えする田んぼのこと)移植できるということは、それだけ大きくなったということです。人間にたとえると幼稚園に入る時期になりましょうか。乳児期を過ぎて幼児期という時期です。
 で、苗の取り扱いの方法。正解は少しいじめる、です。
 トマトやキュウリを露地で育てる人も、5月は植え付けの時期です。しかし、家庭菜園をやっている人が植えるのをみると、大切に大切に、まるで生卵を扱うかような人がいます。カップの中の土を絶対にこぼさないようにする人がいます。でも本当は逆に、根や葉っぱをすこしいじめる。例えば短く切ってしまう、のが良いのです。
 一番最初に本でこのことを知った時には驚きました。「植える前に、からんでいるような長い根はハサミで切ってしまいましょう。大きくなりそうな葉や芽も、摘んでしまいましょう」「えっ!!そんな」
 ところがよくよく文献をあたってみると、定植の際には長さをつめろと必ず出てきます。必要なことなのです。
 成長した姿を知っていると、苗はとても小さくて弱々しく見えるので、どうしてもおっかなびっくりに接することになりますが、実はそれほど弱い存在ではないということです。
 ですから、私たちも田植えをするときに、苗箱を適当に積み上げて、苗をいじめています。長い葉っぱは自然にちぎれてしまいますし、弱い茎はポキンと折れてしまいます。そして田植えで、強い風の吹くところにわずか1〜2本で放り出されるわけですから、イネも最初数日は軽く風邪をひきます。ただし、そのあと、いじめられても死なずに生き残った葉や茎は、元気を取り戻し、力強く成長してゆきます。小さいから弱々しいからといって、過保護にする必要はないし、むしろその逆にしろ、というわけです。
 例によって、人間の成長と比較してしまうんですけれど、わが家の子供たちは一人が小学生、一人が小学校入学前に当たります。まさに幼児期と少年期ですね。植物の育て方に照らし合わせれば、厳しくしながらも自分の力で成長するのを見守る、ということになりましょうか?
 そう、頭では分かっていてもこれがなかなかどうしてサジ加減も難しく、感情も揺れるので思った通りには出来ません。全くのダメ親です。人間を育てるのよりも植物を育てるほうがどんなに楽かと・・・。小学校の先生、保育園の先生、いつもありがとうございます。昨今ではホメて育てるという教育論が主流ですが、自然界と同じく根も葉もバッサリ切りながら、ご指導を賜りたく存じます。よろしくお願いします。 




HOME

Copyright (C)1997-2009 Akiyama-farm. All rights reserved.

このホームページ上に掲載されているすべての画像・文書などの無断転載を禁じます。