「ビヨンド・オーガニック」

 「オーガニック」という言葉はアメリカから来た言葉です。
 これを日本語に訳したときに「有機」になりました。でも、有機って、あまりいい訳語とは思えません。有機の反対は無機? 有機栽培じゃなくて無機栽培もあるの? と聞かれたことがあります。私に聞かれてもそんなこと知りません。有機という字面から「食の安全」とか「食べる人の健康」とか「丁寧に作った農産物」とかイメージできますか? 有機の機は、機械の「機」ですからね。もうちょっといい訳語はなかったのでしょうか。
 ですから英語のオーガニックがそのままカタカナになって、日本には定着してしまいました。中国語では「緑色食品」といいますが、有機食品よりもこちらのほうがイメージが膨らむ気がします。
 さて、あまりに一般化したオーガニック。最近はいたるところで見かけます。
 普通のスーパーでも、時にはコンビニでさえも、オーガニックと表示されたものを売っています。日本では20年位前に、生協の宅配が「有機栽培」をとりあげて広めていったのが、最初だろうと思います。当時はちょっとキワモノ的なオタクっぽいイメージがありませんでしたか?
 しかし最近はただの宣伝文句になってしまっているようで、オーガニックってつけばもう何でもいいや、そんな風潮になってきつつあります。本来は、化学合成物質を使わずに、大量生産でない昔ながらのやり方で作ったものをオーガニックと呼んだはずですが、オーガニックのインスタントラーメンもあるし、オーガニックなスナック菓子も、電子レンジで解凍するだけのオーガニック冷凍食品も存在します。オーガニックの本来のイメージ、小規模・高品質とはなんか違うような気がしませんか。
 どうしてこんなにオーガニック食品が増えているのかというと、認証という仕組みがあるからです。
 大きな枠組みは国が決めています。アメリカなら農務省、日本なら農林水産省が細かい線引きをしています。農薬の成分・濃度、化学肥料、遺伝子組み換え、抗生物質、ホルモン剤、放射能・・・。こういったところに国の基準を設定し満たしていれば、有機と認証されるわけです。農場のサイズは巨大でもいいし、大量の農産物をまるで工業製品のように扱っても、有機は有機、オーガニックはオーガニック。たとえば、ジャガイモと揚げ油が基準を満たしてさえいれば、マクドナルドのフライドポテトだって有機になりえます。
 問題は、誰がどうやって認証するか、です。
 国が基準を作るのは簡単です。安全と思えるものをならべて書面にすればいいからです。しかし農業の現場は、一律の基準では生産できません。農家が違ば考え方も違うし、同じ農家の畑であっても、田や畑によって管理はまるで違ってくるのです。
 アメリカではオーガニックを宣伝文句に使いたい食品メーカーやスーパーが、政府に圧力をかけて、大規模な農場の認証が通るような基準が使われています。だいたい大きな農場しかお金が払えないそうです。
 いっぽう日本では、父ちゃんが作ったものを奥さんが認証すれば、審査を通ることもあります。仕入先が認証機関をしている場合もあります。利害のない第3者ではなく当事者同士で認証し合っているんです。認証の基準もやり方も確立していませんが、問題が起きないかぎり、有機は有機です。
 そうやって、ちまたにオーガニック食品は増え続けています。認証の件数も増え続けています。消費者が望んでいるから、と説明すればそれまでですが、僕にはなんだか解せない感じがしていました。

 そしたら最近、ビヨンド・オーガニック(有機を超えて)という言葉が、またアメリカから入ってきました。アメリカの農家も直売に力を入れだして、テントを建てて自分で売っているそうです。俺がこうやって作った。直接、いくらでも説明する。有機かどうかはお客さんが判断してくれ。
 この話を聞いたときに、あ、僕らと一緒だ、と思いました。うちも有機認証は取っていないし、また取る気もありません。だから全国チェーンのスーパーとも無縁です。でもいい農産物を作る人は、お客さんが喜んでくれればそれでいいはずです。有機認証かどうかはそれぞれ個別の判断でいいはずです。
 僕らがコメの栽培方法を「履歴書」にして公開したのは、もうずいぶん前。日本で1番か2番か知りませんが、先駆けであったのは事実です。いまでは生産履歴の公開はめずらしくありません。
 オーガニックの前提が「安全に対する不信」から始まったのだとすれば、ビヨンド・オーガニック(有機を超えて)は、むしろ逆に「お互いを信頼する」ところから出発しています。これからはオーガニック以上に、ビヨンド・オーガニックが広まって、生産者と消費者の関係が深まることを願ってやみません。




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