「虫の季節」

 今年もホタルが飛びはじめました。
 田んぼというのは緑が多いところですが、あくまでも人工的な緑です。本当の自然、誰も手をつけいてないありのままの自然じゃなくて、人間が細かく管理し、お金に換えられる作物を栽培している工場のようなものです。「環境破壊の第一歩は、農業の現場から」という言葉さえあります。厳密に言えば、農業は環境に優しいわけではないのです。人間の都合なのです。
 そんな田んぼで、ホタルを見るのは特別な思いがします。
 ホタルはただ夜に光るというだけで害虫でも益虫でもないので、田んぼにいても迷惑にならないし役にも立ちません。しかし、とても繊細な生き物らしくて、水路の水が汚れていたり、殺虫剤・殺菌剤をまいたりすると、途端に死滅します。環境の変化についていけない象徴のような存在です。おそらく50年前、100年前には大量のホタルがあちこち乱舞していたとおもわれますが、現在では農村でもなかなか見ることが出来ない貴重な存在です。
 うちの田んぼには、とりわけたくさんいます。というか、よその田んぼではほとんど見かけません。うちの田んぼは無農薬ではありませんが、地元農協基準の5割〜9割減の使用量ですから、多様な生物が生きられる環境が整っていると考えています。また極端に浅く耕運することで、味が良くなる横根を延ばしながら、酸素の好きな微生物が土の表層で活発に働く、栽培方法はそんなこともねらっています。もちろん一朝一夕に豊かな田んぼが出来上がるわけもありませんので、長年の積み重ねの成果でしょう。ホタルの存在は、私達の栽培管理の方法が評価されるような気がして嬉しいものです。用もないのに夜更けにわざわざ田んぼに出かけたくます。満ち足りた気分でホタルの鑑賞会をします。
 環境問題をどうこうしようなんて大それたことではなくて、自分達の田んぼくらいはいろんな生物が共存できるといいなあと願っているだけです。またそのほうがイネも強く育つのです。
 先週、新規にご購入いただいた東京にお住まいのお客様より、おコメに虫が出た、とご連絡をいただきました。健康に関心の高いお客様で、1ヶ月ほど前に玄米をご購入いただいたのですが、ご飯を炊こうと思ったらガの幼虫のようなのがいた、というのです。おコメにつく虫を見たのは初めてだったようで大変に驚いたご様子でした。こちらとしても、不快な思いをお掛けし、本当に申し訳ない気持ちになりました。
 ご新規のお客様でしたので、殺虫剤などを使わない栽培方法であることや、梅雨の時期には虫がつきやすいことなどをご説明申しあげました。こちらでは出荷まで冷蔵庫で保管していますが、お客様のところでは台所に常温保管が一般的だと思います。ただ気温が15度を超えたら、おコメは野菜と一緒、と思っていただきたいと思います。できれば密封して冷蔵庫で保管、さもなければ封を切ったらすぐ食べる・・・。夏場の品質の劣化は激しいですし、虫も出てきます。真空パックになっていても品質の保持が1〜2週間、出来る程度です。
 お客様みなさまのご理解とご協力をお願いいたします。
 私達の生活はたくさんの虫に囲まれています。蚊に刺されれば肌が赤く腫れます。ハチに刺されれば、薬か病院かと大騒ぎします。一方、セミのけたたましく鳴く声には夏の暑さを感じ、朝露の残る草の上にバッタやてんとう虫を見つけると風流を感じます。水辺でヤゴからトンボに変わっていくさまを目にしては、この世の神秘を感じずにはいられません。
 わが家の子供達が飼っているカブトムシは、玄関の虫ケースの中で茶色いサナギになりました。真っ白い幼虫の時はおがくずから元気に這い出してきては、クネクネと動いて見せたのですが、今は冬眠のように全く動きません。脱皮して成虫になるのは子供達の小学校が夏休みになる頃でしょうか? 黒光りするカブトムシが羽音を立てるのを想像しながら、今のところ沈黙を堅く守るサナギを、朝に夕にあたたかく見つめています。




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