「コメの先物取引」

 コメの先物市場が出来るそうです。
 今年の春先から玄米の相場は値上がりしていて、ここ数年では一番の高値がずっと続いています。去年は、天候不順のため収穫が多くはありませんでした。そこに東日本大震災が起こって、農業地帯が大打撃を受けたことも一因です。
 そして何よりも影響が大きいと考えられるのは、世界的な穀物の高騰です。麦も豆も値段が上がっており、とうもろこしはこの6月についに史上最高値をつけました。
 異常気象は日本だけでなく、ヨーロッパやアメリカにもあって
その穀倉地帯にもまとまった雨が降らない乾燥、旱魃、日照りといった被害が出ています。どこも不作なのです。
 この夏、新潟では例年より梅雨が早く明けたため、いまのところコメは豊作傾向ですが、じゃあ、それを受けて米価が下がるかといえばそうなっていません。局地的な大雨や洪水も出ているため、まだまだ予断を許さない状況です。

 生産者の受け取る米価が高い今の状況は、農業経営をしている立場からすると歓迎すべきことですが、ひとたび価格が反転し、暴落すると目も当てられないことになります。それこそ肥料代も燃料代も地代だって、現実の固定したコストです。
 巨大資本の経営ならば、販売価格の乱高下にも耐えられるのでしょうが、こちとら零細農場ですので、ひとたび大きな波をかぶれば簡単に転覆してしまいます。
 ですから本当は、価格が安定しているというのが農業には必要なことなのです。
 アフコでは多くの個人のお客さんに年間で予約してもらって、
価格をあらかじめ決めた状態で販売しています。
 これは実は小さな先物取引です。米価が上がろうが下がろうが、私たちは収入を確保できるし、お客さんはデパートやスーパーのコメの値段がたとえどんなに上がってもそれに関係なく最初の値段で購入することが出来ます。本来、先物取引はモノを確実に取引する人たちにとっては、買う人にとっても売る人にとっても有用なものです。
 毎日の食生活に関係する、小麦、とうもろこし、大豆、小豆、コーヒー、にまで先物相場があるのに、なぜコメになかったの不思議です。小麦の先物相場は、パンや麺類に直結しますし、大豆が上がれば豆腐、納豆、味噌しょうゆ値上げ。とうもろこしは家畜のエサなので肉や卵、牛乳の値段と連動しています。コーヒーや砂糖だって一般家庭の台所と切り離すことは出来ません。それなのになぜ今までコメには先物取引がなかったのでしょうか。

 調べてみると、江戸時代、大阪が天下の台所と呼ばれていた時期、世界で最初の先物取引所が大阪にあったのだそうです。
日本ではずーっと昔からコメが貨幣と同じ価値をもって流通していた歴史もありますから、江戸時代になって貨幣経済が安定してくると、コメの先物相場が出来るのは自然の流れです。
 その先物取引所が廃止となったのは戦時中、1939年のことです。食糧不足から国による統制経済となったため、配給物資に先物相場は不要となりました。
 お金があっても食べ物が手に入らないという悲惨な体験は、
その後の日本の食料政策に影響をあたえ、結局、今の今までコメの流通やその価格は、国による実質的な管理が続いています。そのかんに、中国の人民公社の失敗や、ソ連の集団農場の失敗もあって、計画経済でも農業はうまく行かないとわかっていたにもかかわらず、です。
 江戸時代のコメ先物相場の成否はともかく、国の関与が大きすぎるのは考えるべきでしょう。だからもし、今回のコメ先物相場開設の動きが現実になるのなら、それはひとつの突破口になるかもしれません。

 ただし、農協グループはメディアを通じて先物断固反対を表明しています。先物取引といえば博打、国民の大事な食料をマネーゲームの対象には出来ない、と言っています。
 確かに先物取引には、投機目的の参加者が必ずいて、作っている人と食べる人だけの取引ではありません。
 しかし、そういった思惑のあるたくさんの参加者のおかげで、売買が安定するのもまた事実です。そうでなければ原油、金、銅などの重要な資源にまで先物取引が使われるはずがありません。
 農協グループは、JAバンクやJA共済から集めたお金で、世界を代表する機械投資家の地位を確立しています。つまり自分たちは世界中の市場で、商品先物・金融先物などいろんなところに実際に投資しているのです。ですから、農協が反対している理由は、先物市場に問題があるのではなく、なんらかの政治的な力・利権と、関係しているのではないかと考えられます。
 いずれにしろ農協が推進の旗を振っているのではない以上、まだまだ紆余曲折がありそうですね。先物だけに、先は長い、なんちゃって。




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