「妙高山麓の露天風呂」

 東京在住の友人が遊びに来ました。小学校時代の同級生、10年ぶりです。
 普通は10年も会わないと、ふけたなあとか、ちょっと太ったかなあとか、などと感じが変わったところに目が行きがちですが、昔の友達ってのは不思議なもんで、ふた言三言、話をしただけで、子供時代にいっぺんに引き戻されます。
 「越後湯沢でずいぶん待っちゃった。」
 「ああ、土砂崩れがあって特急のダイヤ、乱れてるんだよね」
 直江津駅に迎えに出ましたが、形式ばった挨拶を交わす必要もありません。10mも歩くともう、午前中で学校が終わった日の10歳の子供のようなウキウキした気分になりました。
 「お昼食べた? お茶でも飲む? 温泉でも行く?」
 
 妙高山のふもとには、赤倉温泉をはじめたくさんの温泉が涌いています。地元の観光ガイドマップを広げて、行ったことのない温泉を探すと、結構これがあるんです。こんなところにも温泉あるのか、ここも行ったことがないなー。うちからは車で30〜40分でしょうか。
 ちょうど子供の友達も遊びに来ていたので、みんなで温泉いくぞーと誘い、タオルだけ持ってひょいと行ってみることにしました。
 温泉入り口の看板を適当に曲がり、山をぐんぐん登っていきます。霧の中へ入り、いっぺんに気温が下がった頃、最初の温泉街が目の前にあわられました。10軒くらいでしょうか、ひなびた小さな温泉街。でもまだ先があるようです。
 一本道を山の奥深くへさらに登ります。トンネルをくぐり、ヘアピンカーブをいくつも曲がり・・・。 たどり着いた先はさっきよりもさらに小さな温泉街。行き止まりでした。
 Uターンもままならない狭い道、急斜面。側溝からは湯煙もあがり、かすかに硫黄のにおいも漂います。
 さて、どこかで日帰り入浴できないかなと聞き込み。玄関に出ていた旅館のおじさんによれば、「うちなら一人700円、この坂をあがって行くと無料」
 「無料??」つまり、タダってこと? よくわかりません。車をなんとか駐車場に停めて、今度は歩いて登ります。
 子供たちは、タダっていうんじゃ上までとりあえず行ってみようよ、駄目だったらさ、ここんちに入ればいいじゃん、スタコラさっさと山登りを始めます。山の空気は冷たく、半そで短パンにビーチサンダルでは場違いでしたが、温泉、温泉といいながらと駆け出すように行ってしまいました。
 かなりの急勾配に大人の息も上がる頃、妙高山の登山道の途中に発見。なんと岩風呂です。先客も3人いました。男女が別れたつくりになっており、大きな岩で仕切りもあります。
 東屋のような物置のような脱衣所で服を脱ぎ、ざぶーん!!
 屋根もシャワーも洗い場もなく、ただ山の中、岩で囲ったところにお湯があるだけ。よく見ると白い湯の花がゆらゆら。冷えた体が温まります。
 「これ、なんでタダなんだ?」「冬は大雪でどうやって来るんだ?」「雪ん中で入ったら、きっと気持ちいいねえ」
 小学校時代の僕の友人と、息子たちの小学校の同級生。
 「おーいって叫んでみるか」「これは最高だね、気持ちいい」
 「このお湯はどこから流れてくるんだ?」
 「そこの岩すべるぞ、おい! 登るな!」
 「このフワフワの白いやつが温泉の素か・・・」「これを乾燥させて売ったら、売れるぞきっと」
 「滝に打たれて修行する?」
 「外は寒くてもう出られない・・・」「じゃ、ずっと居れば」
 「行き当たりばったりで来たわりには、これ大当たりだねー」

 妙高山は上越市民にとって特別な山です。2500mほどの山ですが、開けたところからはどこからでも仰ぎ見るように拝めます。
 妙高山に雪が降っても、妙高山の雪が消えても、めぐる季節を教えてくれますし、妙高山に雲がかかると、まもなく雨、妙高山がくっきり浮かび上がれば、その日一日は快晴、と天気予報もしてくれます。
 東京から来た友人も喜んでくれました。子供たちも大はしゃぎでした。また行くことになりそうです。




HOME

Copyright (C)1997-2011 Akiyama-farm. All rights reserved.

このホームページ上に掲載されているすべての画像・文書などの無断転載を禁じます。