「爆発計画」

 田んぼに米ぬかを散布します。
 米ぬかは玄米を精米する時に出来るものですから、もちろん食べられます。その食べられるものを出来るだけ新鮮なうちに田んぼにまきます。また米ぬかはぬか漬け、たくわん漬けの漬け床でもあります。つまり、米ぬかは食べられる菌を増やすのには絶好のものなのです。

 3月、雪解けの時期に、タネぼかしというものを仕込んでおきます。
タネぼかし、ってあまり聞きなれないですよね。「タネ」とは菌のもと、「ぼかし」とはあとで薄めて使うという意味だそうで、それでタネぼかし。
 米ぬかに田んぼの土やワラ、落ち葉などを混ぜ、堆肥を作るように積み上げて、何日かに一回、上下を切り返しながら発酵させていきます。これも不思議なんですが、シートを軽くかぶせておいておくだけで、色は茶色に、においは乳酸菌特有の甘酸っぱい匂い、つまりヨーグルトのような匂いに、温度は35〜50度くらいまで、手を突っ込むと温かいと熱いの中間くらいに、ドンドン変わってゆきます。そして、ぼかしの表面には味噌や醤油を作る菌、こうじ菌の菌糸のようなものが伸びてきます。菌糸といえば、糸を引く納豆も、昔はゆでた大豆を稲ワラでくるんで作りましたね。こうじ菌、乳酸菌、納豆菌などさまざまな種類の土着菌が田んぼには元々いて、それらがぼかしの中で繁殖していくときに熱が出ます。一旦上がった熱が落ち着いて、さらっとしてくるとタネぼかしは出来上がり。約一ヶ月の工程でしょうか。

 それで、この土着菌のかたまりのタネぼかしを田んぼに入れて、さらに5月の田植えの前後にまく米ぬかをえさにして、田んぼに土着菌を増やしていこうというわけです。 名づけて「微生物爆発計画」。

 田んぼに微生物を増やす狙いは3つあります。
 1つ目の狙いは、多様な生物が生きやすい環境を作ること。
 イネの怖い病気に、イモチ病やモン枯れ病という病気があるのですが、これはばい菌によるものです。特にコシヒカリはそのどちらにもすこぶる罹患しやすく、これらが広がると全滅の可能性もあるため、何としても防ぎたい疫病です。病気を防ぐために普通は殺菌剤、つまり農薬にたよるわけですが、ほかにも対処法があるんじゃないかと考えました。菌の世界は拮抗・バランスです。いっぽうが強くなると別のものは劣勢になる・・。納豆菌や乳酸菌は、繁殖力でばい菌のようなカビに劣りません。そこでイモチ病菌が田んぼで増える前に、有用な菌を圧倒的優位にしてしまえばどうか、と思うわけです。
 農業の考え方は色々あって、水耕栽培のようになるべく病原菌を排除しよう、という方法もあります。食品工場のようなハウス内では、作業者は入り口でエアシャワーを浴び長靴を殺菌消毒するので、野菜は無菌に近い状態で育ちます。極端にいうとそれと逆の発想で、すべての菌を排除するのではなく、有用な菌を増やしコントロールするわけです。

 微生物を増やす2つ目の狙いは、小動物を増やすことです。ぼかしや米ぬかをまいたあと2週間ほどすると、田んぼにはプランクトン、ミジンコ、糸ミミズがあらわれます。
こういった小動物が増えると、それを食べる昆虫が増え、昆虫が増えるとカエル、そしてヘビ、最後に鳥たちまで田んぼに集まります。
 肉食のヤゴ、ホタル、カエル、鳥が現れると人間の目でもはっきりと食物連鎖がわかりますが、その食物連鎖の底辺は、人間の目には見えないプランクトンやそのえさになる微生物でしょう。微生物が増え、小動物が田んぼの表面で動き回ると、水がにごり雑草が生えにくくなるのです。雑草が減れば除草剤の使用量も減らせるので、それは私達にとっても嬉しい恩恵となります。
 3つ目の狙いは、土がやわらかく、温かくなることです。多様な菌が豊富に存在しバランスが保たれていれば土は温かくなります。更にミミズが活発に動き回れば、トラクターで土を粉砕しなくたって、いつも土はふかふかです。ふかふかで温かい土は、保水力もあり、根には最高の環境です。

 タネぼかしは起爆剤で、黄色い粉末・米ぬかは燃料です。
 田んぼにまきながら、爆発しろ、今年も爆発しろ、大爆発を起こせ、と念じています。




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