「私の農業20年」

  1994年に就農して20年になりました。長野で本格的に農業の勉強を始め、ここ上越に越してきて18年が経ちました。
 私は埼玉県の非農家の出身です。今から思えば、農業という職業選択そのものが、多少の冒険だったように思います。そもそも非農家の者が、農業をするときには大きな壁があったからです。農地法という法律です。
 就農前は「農村では離農する人が増えていて、だれも農業なんかしたがらない」が常識だと思っていました。空いている駐車場を月ぎめの賃貸契約するみたいに、農地なんて簡単に借りられると思っていたのです。ところが現実は、やる気があっても農地は借りられません。意外でした。農地法に引っかかったのです。
 農地の使用権を規制するこの法律は、戦後すぐからあって「親が農家でないならば、農地を使えない」「農業をしない人に農地をわたすと、乱開発をして田んぼや畑がめちゃくちゃになる」という建前なのですが、実態は「ムラ社会を守るために、よそ者は農村に入れない」というものです。どんなに農業に興味があっても、都会から移り住んで新しく参入してくるな、という参入障壁です。なにより私が不思議だったのは(っていうか、今でも不思議ですが)「なぜ農村は新しい人をはじくのか」です。ほかの業界にも家業が2代3代と続く例はありますが、日本中の農家にそれほど大きな利権があるとは思えません。事実、農業・農村からの人の流出はいっこうに止まりませんし、高齢化と過疎化は進むばかりです。人が減れば仕事も減るので、地方は所得も減るばかり。しかし、農業はおもしろい、農村は宝の山だ、とアイデアと行動力を持ってやってきても、なかなか受け入れてもらえないのが実情です。
 20年前の私は、地縁も血縁もない、先祖代々の農地も経営基盤もない、自己資金もない、技術もおぼつかないという、ないない尽くしのスタートでしたので、農地法は厚い厚い壁でした。農協からも役所からもそっぽを向かれ、正規の農家とはなれませんでした。結局「ヤミ小作」からスタートして、少しずつ今の秋山農場になってきたわけです。

 日本の農業の問題というのは、つまるところ人不足です。
 地方自治体はUターンだ農村回帰だと声を上げて、村から都会への人の流れを、逆戻しにしようとしています。しかし、田舎暮らしにあこがれるだけの悠々自適な定年組を、新しい農民と呼ぶのは無理があります。本気で農業で食っていくぞという若者や、海外の農業先進国にあるような大規模の農場を作ろうという企業は、なかなか見えてきません。過疎化の進む農村で、増やしたい新しい人材とは、いったいどういう人たちなのでしょうか。残念ながら、政府は補助金をあっちこっちに付け替えるばかりで、農業改革なんか本気でしようとはしないし、マスコミはどこも、JAグループからの広告収入が大きすぎるのか、われ関せずの姿勢。まるっきり高みの見物です。食料自給率を引き上げようと演説しながら、減反を40年も続けて耕作放棄地がどんどん増えていく政策に、矛盾はないのでしょうか。
常に農業は弱い産業だ。農民は常に弱者で貧乏だ。農業には保護と支援が必要なんだ。こうしたステレオタイプな見方を固定化し、維持したいのはいったいだれなんでしょう。政治家でしょうか、メディアでしょうか。それとも農村自身でしょうか。

そんなことを考え続けて、いやはや20年になりました。もちろんその間に、恐ろしくゆっくりではありますが、変化は見られます。農家か集落という枠の中でしかダメだった農業経営が、株式会社でも可能になったとか、新規就農者への支援施策が全国でちらほら見られるようになったとか、農地法も少しばかり改正されたとか、少しは前に進んでいます。ただし農村の疲弊するスピードがあまりに急なので、再生プランが間に合わなくなる可能性もあります。

 アイ・ハヴ・アドリーム。私には夢があります。
 美しい日本の原風景を、ずっと先の先までつなげて欲しい。仮に移民や大企業が耕作するのであっても、日本の美味しい農産物を誰かが作り続けて欲しい。そして、農業の楽しさについて都会の人とも語り合う日が、もっとたくさんあって欲しい。

 私も、中年になり体のあちこちにホコロビがでるようになりましたが、心は20年前の農業青年のままです。節目の年をむかえ、上手くいった事、上手くいかなかったこと、いろいろ思い出しました。地主さんをはじめ地域社会、そして全国のお客さん、これまで多くの人のお力添えを賜りました。厚く感謝を申し上げます。
 私が一番進歩していないのかもしれませんが、小さな夢を忘れずに、21年目も私の農業を楽しみます。ご支援ご鞭撻のほどよろしくお願いもうしあげます。


稲刈りの終わった田んぼと妙高山
稲刈りの終わった田んぼと妙高山
薄曇りの空とススキ
薄曇りの空とススキ
干し柿のある窓辺
干し柿のある窓辺

晩秋にはグレーと青が増える



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