「ツーリング」

「原風景はいつもドタバ

「春を呼ぶ」

 窓の外では、白い雪が少しずつとけてきました。雪がとける時期には、雪のとける音がします。雪のとける音といっても、雪のとけた水が屋根を流れ、軒に落ち、雨降りの日のような音がする、ということですが。大げさではなくて、家の中にいるとまるで大雨が降ったような、思わず窓の外を覗きたくなるような、水の音がします。

 雪もとけるはずで、二月の節分の翌日は立春です。季節がひとめぐりする大きな節目です。まだまだ寒いけれど、暦では春を迎える。日が長くなり、雪が解け、木々の芽は膨らみを増します。小さい芽が育っている音も聞こえてきそうなほどです。

 子供の頃は、節分の日に豆まきを家でやりました。
 玄関から始めて、窓から外に向かって「鬼は外、福は内」といって豆まきをするので、翌日は拾ったはずの豆が家の中に忘れて落ちていたり・・・。年の数だけ豆を食べて、でも残りの豆も食べて・・・、と結構楽しい行事です。
 豆まきの鬼退治、鬼はいろんな厄災の象徴で、いわゆる邪気払い、をする。気温が上がり、木々が育ち、花粉も飛んで、ウィルスも飛んで、風邪を引いたり病気になりやすい季節でもありますから、厄払いをする意味もこめています。
 邪気払いに豆を使うのは、豆が魔滅(まめ)とも呼ばれ、魔よけの象徴だったせいもありますが、豆が健康の象徴でもあったからです。小さい粒なのに栄養価が高く、薬としても使われてた大豆は、邪気を払うほどの力がある、と感じていたのでしょうね。  三月の節句にも豆菓子を食べる習慣がありますし、田植えの頃には大豆ごはんを食べる習慣もあります。食習慣の地域差はありますが、お赤飯も一年の節目、一月の節目、吉事にも凶事にも食べられます。米と豆の組合せ、米食文化の地域ではごく自然な食習慣なのです。
 それもそのはず、米を主食とした地域には、豆は昔から根付いている食材で、「米と豆を食べていれば大丈夫。」と言われるほど米と豆の食べ合わせは非常に良いのです。米は炭水化物を多く含んだ作物。豆はタンパク質と脂質が多く含まれた作物。米と豆を食べると生きるために必要な栄養は、ほぼそろいます。ごはんと納豆。ごはんと味噌汁。おやつには、しょうゆせんべい。身近なところに豆と米の組み合わせ、たくさんあります。
また、アジアの多くは雨も多く水田を使った稲作の地域がたくさんあります。一年中気温の高い東南アジアでは、二期作どころか、一年中米を作ることが出来る地域もあるでしょう。米が稔ったら、収穫し、収穫が終われば田を耕し、田を耕したら水を引き、と、日本とはまた違った稲作のサイクルで稲を作りながら、その脇で豆も育てて食べています。

 その大豆、水を吸わせて暗いところに一日置くと、芽を出します。「スプラウト」の代表のもやしも、発芽は暗室で行います。
 暗いところで芽を出して、太陽が出たら葉を広げる。種から発芽という大きな力が動くには、気温や湿度、明るさ暗さなどが発芽条件にぴったり合わないといけません。春という季節は、発芽条件を満たす活き活きした季節なのですね。種の準備も始まりました。木の葉が揺れる春がすぐそこまで来ています。

 



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タ」

  桜の咲く季節は、花粉とともにやってきます。
日本3大夜桜に数えられる地元・上越高田公園のお花見は、花粉症の私にとっては、鼻水やくしゃみと戦いながらの行楽です。
花粉症がひどいから出かけるのは止そう、とはなりません。きれいにライトアップされた園内で、お酒を飲んだり、たこ焼きをつついたり、赤いぼんぼりの桜のトンネルを歩いたりは、やっぱり毎年恒例の欠かせない行事になっています。
これは、桜を愛する日本人の心でしょうか。でも、ときどきふと考えてしまいます。だって、夜露に濡れた冷たい芝生の上に、ダンボールを敷いて、花をながめるだけですよ。
「寒いな、鼻水が止まらない。このダンボール、お尻のところ、しみてきたな。あ、花びらが舞ってきれいー、むむ、これ桜吹雪じゃないぞ、あ、あられだよ、あられ! 道理で寒いわけだ。こりゃだめだ。撤収、撤収。でも桜きれいだなあ」
 夜桜、けっこう悲惨な環境に身を置いて、花を愛でるのですが、どうしてこんなにも楽しいのか。いや、われながら不思議です。心の奥深いところに、何かが宿っているとしか思えません。日本人が古来から持つ「原風景」なのかもしれません。

 原田泰治さんという人の絵が好きです。
 「こころのふるさと」「日本のふるさと」をテーマに、日本全国の農村漁村が描かれる、どこかなついかしい絵です。長野県の諏訪に美術館もありますし、新聞の連載や、切手、カレンダーなどでも、ときどき見かけるので、ご存知の方もきっと大勢いらっしゃるでしょう。かやぶき屋根に、つぎはぎだらけの農作業小屋。舗装されていない土の道。おんぼろバスに、木造の校舎。今ではなかなか見られない、でも、いつかどこかでたくさんたくさん見たような、そんな風景ばかりです。春、一面の菜の花畑、散歩する黄色い帽子の保育園児たち。夏、じいちゃんとバーちゃんが畑の草むしり、くわで農作業。腰が痛くなっても、終わらない。秋、はさ木に架けられた稲、たわわに実った柿の木。冬、落ち葉を集めてたき火。校庭で小学生がたこ揚げ。雪かき。
テレビもない。携帯ゲーム機もない。高速道路も、新幹線も、コンクリートのビルも、コンバインもない。便利とはほど遠い、生活していくだけでも大変なはずの風景が、なぜか心にしみるのです。登場人物たちが生き生きとして見えるのは、なぜなのでしょうか。

 スタジオジブリ、宮崎駿の作品にも、どこかなつかしい風景がたくさん登場します。
 たとえば「となりのトトロ」なんて、田舎のあばら家に引っ越してくる場面から始まりますよね。玄関の柱の木が腐っているのに、サツキもメイもほんとに楽しそうです。森の奥深くに探検に行く子供たちって、今も存在するのでしょうか?
 テレビ番組の「DASH村」も、いつも不便と苦労の連続を描いています。
 農業をするのに大型トラクターは使わず、漁業をするのに近代的な漁船は使いません。
村の古老みたいな人に教えを請いながら、ひたすら手仕事、手仕事。そして、いつも自然の脅威があります。普段はスポットライトを浴びる人気タレントが、わざわざ田舎に出向いて不便なことをしている。きっとそのギャップが、おもしろいのでしょう。
 
 私は農村に暮らしているので、いつも自然に振り回されています。自然に翻弄されながら生活しています。「DASH村」を地で行っているようなものです。本音をいうと「不便」は決して美しいものではありません。だから「農業を守れ」「農村を守れ」なんていう新聞の社説やら、だれかの演説には、何だかウソ臭いものを感じます。
行政の仕組やら、メディアの作り出す価値観・判断とは、はっきりと一線を画して、自分のこころの奥のほうと相談するのが大事です。不便だからやってみたい、快適じゃないから笑ってしまう。
 私のこころの奥のほうは「ドタバタ劇が案外楽しいぞ」と教えてくれています。

 
雪の重みで折れた枝も花芽が膨らみ始めました
雪の重みで折れた枝にも花芽
青空と雪の田んぼ
雪の下は、湿度100%も温度0℃と微生物好みです



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 ゴールデンウィークに入ると、ツーリングしている人が増えます。
 大型連休なので遠出してみよう、計画して出かけてきた人や、暖かい陽気に誘われて、風を切って走ってみるかとフラフラと思いつきで出かけてきた人、さまざまですね。いずれにしろ、大きな国道などは大にぎわいです。
 新潟は、豪雪地方ということもあって、道幅がほかのところよりもずっと広く、路肩がしっかりしています。路肩のないような道ですと、車ともつれ合うように走らなければなりませんから、窮屈ですし危険ですが、広々とした道では気兼ねなく快適に飛ばせます。ツーリングに適した地域という意味では、新潟はかなり上位にランクされるのではないでしょうか。

 なかでも特に、私が心を魅かれるのは、オートバイではなく自転車に乗っている人たちです。カラフルなサイクリング・ジャージに、本格的なロードレーサー。スタイリッシュなヘルメット。光るサングラス。渋滞する車を横目に颯爽と通り過ぎます。
 にわかレーサーでも一日50km、気合の入った人は一日に200kmも走るようです。
 実は私も、自転車に乗るのが大好きで、学生時代は日本中を旅行しました。去年も、佐渡やら北海道やらちょこちょこっと出かけました。私の場合は、ロードレースではなく、単なるサイクリングです。
 山を見て、海を見て、農地の続く景色を見て、のんびりとゆっくり走る気楽なもので、少しもハードではありません。
 川の土手にはすぐ座るし、道の駅には必ず寄りますし、温泉の看板なんぞ見つけると素通りできません。寄り道ばかりの気まぐれ旅、ぶらぶら街歩きの自転車コース、という感じですね。ただし、あまり都市・都会には興味がありません。田園地帯がいいのです。

 ツールドフランスを衛星放送で完全中継するようになって、ずいぶん経つと思います。
夜更かし、睡眠不足を気にしながら、つい観てしまいます。自転車ロードレースの最高峰ですから、選手達の走る姿もかっこいいのですが、それよりも何よりも、フランスの田園地帯の美しさが圧巻です。息を飲むような圧倒的な風景の連続です。肌であの空気を感じながら走るのは、最高の気分でしょうね。

 5月に新潟の道を走るのも、悪くありません。残念ながら私は田植え真っ盛りなので、この時期にツーリングにでる機会はほとんどないのですが、田んぼの脇に車を停めて山を眺めている旅行者と話をさせてもらいます。
 「どちらからいらしたんですか」
 「あ、東京です。まだ山には雪があるんですね」
 「雪解け水を田んぼに引いて、田植えをするんですから、まだ雪はたくさんありますよ。今は一番いい季節です。山は白く、緑は多く」
 「ほんとに。田んぼもキラキラしていますよね、思わず深呼吸しちゃいました・・・」
 「ありがとうございます。またきてくださいね」
 泥んこの長靴でトラクターに乗っている私自身も風景の一部です。
 美味しい農産物を作るだけでなく、美しい農村の風景を作る農民でもありたい、ツーリングを楽しむ人たちと話しながら、そんなふうに思いました。

 
雪の重みで折れた枝も花芽が膨らみ始めました
雪の重みで折れた枝にも花芽
青空と雪の田んぼ
雪の下は、湿度100%も温度0℃と微生物好みです



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