「有機か、無機か」


 「設計」という言葉を辞書で引くと「土木・建築工事、機械製作などに先立って、要する材料・費用を見積もり、図面などで示すこと」とあります。
 しかし、辞書には出ていなくとも、農業でも「設計」という言葉が使われます。作物に肥料を効かせる(吸収させる)のにどういう手順を踏むか、という事前の計画を「施肥設計」と呼びます。
 家庭菜園などをされている方はご存知だろうと思いますが、肥料にはたくさんの種類があって、ホームセンターにいけば、目移りするほどよりどりみどり多種多様な肥料が売られています。肥料袋の外側には大きく14-10-12などと、暗号のような数字が並んでいます。これは肥料の3大成分「チッ素・リン酸・カリウム」の配合が数値の表示です。例えば、14-10-12のとき、真ん中の「10」はリン酸が10%含まれていること、つまりたいていの肥料は20kgで一袋ですから、20kg×10%で、リン酸成分が2kg含まれているということになります。チッソは葉を育て、リン酸は花や実を育て、カリウムは根を育てるということで、この3種類がバランスよく吸収されないと植物は上手に育ちません。ちょうど人間の3大栄養素に「炭水化物・たんぱく質・脂肪」があるのに似ているなあ、といつも思うのですがどうでしょうか。
 学校の給食や会社の社員食堂なんかでは、きちんと栄養バランスを考えた食事が、毎日提供されていますね。農家が作物に肥料をあげるのも、それと同じで、植物の栄養についてよく考えなければいけません。それが施肥設計です。

 有機栽培は良くて、化学肥料で育てたものは良くない、というモノの見方にはちょっと残念な思いを持っています。
 大昔の農業には、化学的に工場で製造された肥料なんてありませんでした。動物の糞尿をあつめ、落ち葉や枯れ葉といっしょに積み上げて「堆肥」にして使っていたはずです。農業生産は極めて不安定でした。
 近代化学が発展して袋入りの肥料が販売されるようになると、食料の大量増産が可能になり、農業は安定、また人間の寿命も大きく伸びました。
 しかし今では、化学肥料や農薬を使いすぎることへの社会問題から、一転して「有機栽培万歳」に振り子がゆれてしまいました。
 私に言わせれば、どちらも行きすぎ。折衷案が必要です。

 植物がチッソ分を吸収するときには、有機肥料を与えても必ず、土壌で無機に変えてから吸収します。ですから有機肥料は吸収に時間がかかります。よく言えばじんわりと、悪く言えば、のべつまくなしと効いています。これが有機肥料の特徴で、植物にとっては「空腹時に栄養が足りない」「満腹なのにまだ食べるの?」の両方が、交互に繰り返されます。植物にとっての有機肥料を、人間の食事に置き換えれば、「玄米・玄麦しか食べない。肉も野菜も生で丸かじり」みたいなもので、原始的です。お腹を壊すこともあるし消化不良で翌日までなんかもたれるなあ、ということがたびたび起こります。これでは本当に健康かどうかわかりません。消化しやすいよう、また美味しく食べられるように、調理が必要です。小さく切ったり、煮たり焼いたりしたほうが、消化吸収が良くなりますね。
 化学肥料はこの消化吸収が速やかになる加工がされているため、植物の生理に負荷がかかりません。それでも、人間の栄養にビタミンが必要なように、有機物には化学合成肥料にはない微量成分も含まれているので、これはこれで重要なのです。

 うちでは有機と無機を混ぜて使っています。使い分けています。すなわち、そこのところが設計です。
 田んぼに出かけるとたくさんのミミズがいます。太いの、細いの、長いの、短いの、種類もいろいろです。ミミズは、土作りの支配者で、土のお医者さんで、土壌の偉大な設計士です。ですから、土のこと肥料のことは、ミミズに教えを乞うのが一番なのですが、恥ずかしがりやなのか私の姿を見つけるといつも土の中でもだえているばかり。そんな目が見えないミミズの存在と方向性を、私は信頼して施肥設計をしています。



茎を太く短く仕上げた苗を植えます

田植後、水面は微妙な黄緑色に


水田の夕方 
 
泳ぐカエル。実は、カエルは必要な時意外
あまり積極的に泳がない。



もうすぐ夏になります。



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