「脳は何を求めるか」

 11月はカマキリが多いですね。卵を産む場所をさがしているのでしょうか、いろんなところで見かけます。
 新潟には「カマキリの卵の高さまでしか雪が積もらない」という言い伝えがあります。
 晩秋、庭木に産み付けられたカマキリの卵を新しく見つけるたびに、ほう、今年は50cmしか降らないのか、おやこんなところに、まずいぞ1m50cmだぞ、などとおもしろおかしく話題にします。カマキリが雪の量を正確に予言できるかどうかはわかりませんが、昆虫も厳しい冬に備えていることでしょう。
 そうやってすべての生物が厳しい自然をくぐりぬけて生きてきています。
 私たち人間だって同じです。おでん、お鍋、あったかくていいですよね。美味しい季節になりました。それから温泉も。寒くなると筋肉が固くなるので、あたたかいお湯でほぐしたいですね。
 東欧を旅したら、朝晩は温かいものを食べないという地域がありました。冬は日本よりはるかに冷え込むのに、スープも飲まないとは不思議ですが、これも生活に対応してきた進化の過程でしょうか。牛肉や乳製品をたくさん摂り、体を大きくすることで寒さをしのいできたということでしょう。体格は日本人よりはるかに大柄です。飲料水や野菜に恵まれなかったのかもしれません。

 今年はずっと天候が不順だったため、柿が不作です。例年の3分の1ほどしか実りませんでした。数が少ない今年のような年は、たわわに実っているときよりも、何だか余計に食べたくなります。
 江戸時代まで日本には砂糖がなかったそうです。薩摩藩が琉球から砂糖を持ち込んだのが、江戸時代。今ある和菓子のほとんどは、この砂糖の伝来とともに開発されました。
 脳はエネルギーとして糖分を求めますから、それ以前の砂糖のない時代は何から糖分を摂っていたのか・・・、果物しかありません。「桃栗3年、柿8年」というくらいですから、早く実らないかなー、と昔の人は果物が実るのを指をくわえてじっと待ったはずです。桃、栗、柿のほか、リンゴや梨、ザクロ、山ぶどう、あたりが、長く日本人の脳へのエネルギー源だったでしょう。
 現代は、ビタミン剤もあればチョコレートも人口甘味料にも囲まれていますが、それでもやっぱり果物を食べたいですよね。そんなわけで柿の実りが少ないと、私の遺伝子が「おい、脳のエネルギーが足りなくなるぞ、冬が越せなくなるかもしれないぞ」と静かな警告を発するのだと思います。

 野菜の値段も高騰しています。夏は玉ねぎ、今はニンジン・・。産地を台風や長雨が直撃しました。
 産地の経済的被害は何百億円なんていうニュースに接すると、同業者として本当に胸が痛みます。また「ニンジン高いから焼きソバに入れるのをやめちゃった」という主婦の話も聞きました。消費者のお財布にも風が吹き込んで影響が出ます。玉ねぎやニンジンのような身近な野菜の代わりとなるものなど、そう簡単に思いつきません。
 政府が被害にあった産地に所得を補償するとすれば、経済的な視点です。足りないから他所から持ってくるとか緊急輸入があれば、これも経済的な対応です。
 もちろん経済や流通が高度に発達した社会なので可能なことです。ただ、これで脳が本当に満たされるのかというと、どうなんでしょう。
 焼きソバに野菜を入れたいというのは「脳の根源的な欲求」で、でもニンジン高いからあきらめるかというのは「経済的な判断」です。「脳が求めるもの」と「損得勘定」は、いろいろな場面でせめぎ合い葛藤が生まれます。そして多くの場面で「遺伝子レベルの欲求」を「経済観念」のほうが説得し、経済優勢でことを進めます。でもこれって人間だけの特徴ではないでしょうか。カマキリなどの昆虫はそれほど損得は考えていない世界で生きているように見えます。
 冬支度にいそしむカマキリに「君は本能のまま生きてるの?」と質問してみたいです。
 「今仕事で忙しいから、あとにしてくれない?」などと断られてしまうのでしょうか。それとも「紅葉の露天風呂につかって、ゆっくり話そうよ」と答えてくれるでしょうか。



秋の空は、色も雲も美しい

冬の迫る夕方

落ち葉は集めて田んぼに撒きます。



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