「いいね主義」

  「民泊」を案内してくれるサイト「エアビーアンドビー」ご存知でしょうか。静かなブームのようです。
 「民泊」は民宿に似ていますが、少しだけ違います。民宿は旅館の一種ですが「民泊」はただの普通の家に(空いている部屋に)泊まるというもの。
 あまりプライバシーがないのも嫌なので、これまで敬遠していたのですが、先月、思い切って利用してみました。
 関西の古い町。駅から歩いて15分、いわゆる住宅街のどこにでもある家です。隠居したおじいさんが一人で運営しているようすで、6〜7人いる宿泊客はすべて外国人。家の中の会話はほぼ英語です。ええっ・・と日本語を使っているのは私一人。戸惑うやら混乱するやらで、案内された部屋にそそくさとこもりましたが、築ウン十年の木造家屋、家の主は独居老人(もちろん日本人)、6畳の居間と台所には外国人の若者多数・・・いやー、驚きました。
 ただよくよく落ち着いて考えてみると、民泊は「世界中に友達を作って、そこの家に泊めてもらおう」ということです。特異なことではありません。文化の交流、人的交流としては、むしろ理想的な形かもしれません。
 気になるのは、安全面・設備面・衛生面ですが、これは宿泊者の感想を基準にして、それほどひどいわけでなさそうだ、と私は判断しました。この民泊を旅行業として見れば、法的には保健所の許可とか非常口の確保とかグレーゾーンのようですが、すでに利用した人の大量の情報がネット上には投稿されていますので、お上の基準には頼らず、利用者自身が総合的に判断することになります。

 民泊に限らずインターネット上にはたくさんの個人の感想があふれています。
 正規の旅行代理店でホテルを取る時だって、泊まった人の感想を事前にチェック出来ます。アマゾンで本を買うときにも、レビュー(すでに読んだ人の書評)は確認します。オークションサイトでは、取引相手が正直な人かどうか、星をつけてくれていますし、レストランについては、たくさんの素人が勝手にミシュランさながらの覆面調査をしています。電化製品は、性能から価格までその道に詳しいユーザーがとても丁寧に比較してくれます。あらゆるものに一般ユーザーの評価が付いてまわります。しかもほとんどがそこそこ有用です。
 ごく普通の人の感想や評判が、こんなにも世の中に出回ったことはかつてなかったのではないのでしょうか。
 19世紀は資源を集め、20世紀はお金を集めた。21世紀は評判を集めよう。そんな時代なのだそうです。これまでの産業社会は「資本主義」、新しい情報社会は「いいね主義」。

 この20年で農村の景色は変わりました。宅配便システムの発達とパソコンの普及によって、作ったコメを消費者に直接送ることが出来るようになったのです。
 農業の世界も、とても規制の多い業界です。法律や慣例でがんじがらめといってもいいくらいです。政府による価格統制や品質管理が無意味というわけではありませんが、農業にも競争原理に基づいたシステムが必要です。
 今、政治の世界では「農協改革」と大きな組織の変革を目指しているようですが、「小さな個人のつぶやき、ちょっとした感想」のほうが、ひょっとしたら何かを変えるには早いかもしれません。
 20年前までは農協や政府の下請けにすぎなかったコメ農家が、今では実際に食べた人から「ちょっとした感想」をいただけるようになったのです。そしたら政府米よりも、△△農場のコメや○○さんちのコメのほうに、多く注文が来るようになったのです。うれしいじゃありませんか。

 この先あと20年、生産者と消費者がより近い関係でいられたら、どうなっていくのでしょうか。大きな広告の打てない、小さな農場にとって「いいね」という評判ほど頼りになるものはありません。もし積み重なっていったら近い将来どうなるでしょう。人工知能も進化するでしょうし、何だか新しい農業の未来がすぐそこまで来ているような気がします。すごく楽しみですね。




冬迫る夕方の満月

もみじと冬囲い

稲刈り後の田んぼに米ぬかを撒く



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