「コメ泥棒のDNA」

 秋の収穫の時期になると、新潟県内ではコメ泥棒のニュースが聞こえてきます。
 開いている倉庫から盗まれた、深夜に納屋から盗まれた、ひどいのになると白昼堂々、田んぼにあるモミごと盗まれたなんていう事件もあります。1週間に一度くらいはあるでしょうか。「物騒だなー、農村は顔見知りが多いから犯罪が少ないっていうのは、案外ちがうかもしれない」と思います。せめて自分たちは狙われないよう、やられないようにと気を引き締めて警戒しますが、しかし同時に、よりによってどうしてコメ泥棒なんだと首をかしげたくもなります。というのは、コメは重たくて、かさもあるので、すたこらサッサと万引きするようなわけにはいきません。
 例えば軽トラ一台に満載のコメを盗んでも50万円になるのかどうか? 1万円札を百枚ならば文庫本くらいでヒョイっとポケットに忍ばせて簡単に持ち運べますが、コメを百万円分だと2トン車以上のトラックが必要、さらにおそらくフォークリフトも必要です。犯行に時間がかかりすぎるようだし、慣れない重さに腰が悲鳴を上げるかもしれないし、コメを盗んでも効率が良くないのではないか。犯行が見つかってお縄ちょうだいになる可能性まで考えれば、一回でそれなりの金額を盗まなければ割にあわないのではないか。などいろいろ疑念は沸くばかり。それでも新米の窃盗事件はあとを絶たないので、その道のプロの意見は私とは違うのかもしれません。

 そんなことを考えていたら、コメを貨幣に換算することが必ずしも正しくないのでは、と思えるようになってきました。
 警察は盗難事件を「○○円分相当の被害」と発表します。私たちも収穫したコメを販売して売り上げとして金額に換算しています。
 しかし実際には、コメ自体にいまだに貨幣価値があります。農地を貸してくださる地主さんのなかには、地代の清算を玄米でしてほしいという人も何人かいらっしゃいます。これは時代に取り残された農村社会の悪弊ではなくて、近代的な工場を経営されていて計数管理にも慣れていらっしゃる社長さんの田んぼで「地代は秋に玄米○○俵」と記した賃貸契約書もあります。
 なんでもお金に換算するのは一つの目安としてとても分かりやすいのですが、でもそれ以外の多様な価値基準があってもいいということです。バランスシートの左側には、現金・預金から始まっていろいろな勘定科目が並びますよね。株券や貸付証書、在庫などの棚卸、土地、建物、車、のれん代から特許権まで。お金に換算して一覧表にしていますが、それは法律で決められた会計基準があるからで、法律が整備される前からいずれも独立した資産ということなのだろうと思います。玄米も「仕掛りの農産品」として、貨幣がこの世にできるはるか前から「資産」です。

 世界最古の法律といわれるハンムラビ法典。紀元前2,000年前に古代メソポタミヤで出来たといわれてます。「目には目を、歯には歯を」で知られる刑法のほかにも民法や商法にあたる法律もあったそうです。
 簿記、投資契約、不動産取引契約、金銭消費貸借契約、船舶リース契約、担保や金利の設定まで。紙も本もない時代に、こんなところまで法の整備が進んでいたとは驚きです。もちろん貨幣はまだ発明されていません。利子率を定めた規則には「@穀物を貸借契約に供した場合は、33%の利息を徴収する。A銀を貸借契約に供した場合は、20%の利息を徴収する。B穀物、銀のいずれも既定の2倍の金利を徴収した場合、元本を失う、・・」利息の上限規制があることにも感心しきりですが、一番おもしろいと思うのは、穀物と銀では借りたときに返す金利が違うということです。
 約4,000年ほど時計を進めて、今から50年前のインド。穀物種子の貸付利子は倍返し(つまり100%の金利)。いっぽう貨幣であるインドルピーの貸付利子は30%前後。いずれの場合も、金属や貨幣を借りた場合より穀物を借りたときのほうが、返済金利が高くなります。また牛馬を借りたときも、生まれた子牛を付けて返すのだそうです。

 そんなわけでお金のほうが穀物よりも貴重で便利と考えるようになったのは極めて最近のことで、人類の長い営みのなかでは、まだつい昨日の出来事です。私たちの遺伝子には、「穀物+牛馬」>貴金属>貨幣の順がインプットされているかもしれません。
 ま、そうとでも考えなきゃ、どうしてコメなんか盗むのか説明がつきません。


 


米が実る頃、ちょうちょが増える

只今、稲刈り中


稲刈りが終わる頃、ススキの穂がが出てくる



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