「トンボとカエルと目標設定 」
2018年7月号

  
 トンボとカエルには共通点が多くあります。どちらも田んぼにたくさんいます。幼少期は水の中で育ち、大人になると飛ぶことが出来ます。トンボの幼虫はヤゴ、カエルの幼いものはオタマジャクシです。トンボは昆虫でカエルは両生類という違いはありますが、食べてるものもほとんど同じで、蚊だとかハエだとかブヨだとか、だいたい虫です。
イネの害虫であるウンカという虫を食べてくれるので、私たちにとっては頼もしい味方です。
今の時期の田んぼでは、ヤゴはトンボに、オタマジャクシはカエルに次々に変身するので、とても目立つ存在になってきました。特にうちの田んぼにはたくさんいるのです。

サッカーのワールドカップで予選リーグ第3戦、日本対ポーランドの試合が物議をかもしています。日本チームは自分たちが決勝ラウンドへ勝ち上がるために、時間つぶしの作戦をとり、正々堂々とファイトしませんでした。最後の10分間、談合のようなプレーに終始しました。
 その戦いぶりに「失望した。幻滅した。あれじゃサムライじゃない。もう応援したくない」という声が上がっています。
いっぽうでサッカーに詳しいファンからは「南米やイタリアなどサッカー強国では、逃げ切るための当たり前の戦術」と、むしろ日本の戦い方のバリエーションが増えたことを評価する声も上がっています。大会前は悲観的だった私も、日本の快進撃に驚きと喜びと感動と、なんだか普通じゃない日々を過ごしています。
日本の世界ランクは61位です。世界的なスター選手は一人もいません。予選リーグ3戦全敗が大方の予想でありました。ひとつ勝ったから次も勝てる、引き分けじゃ不満だ、グループリーグの抜け方が美しくない、って考え方は非現実的じゃないかと思っています。
 そもそもサッカー界で「美しく戦って、しかも勝負に勝つ」を実践できるのは、王国ブラジルだけです。それ以外の国は、徹底的に勝負にこだわるか、それとも華麗なサッカーに酔うか、どちらかを選ばなくてはなりません。どちらを選ぶかはその国の国民次第です。
 ブラジル以外の南米、ドイツやイタリアでは、泥臭くても堅実に勝つことが求められますし、逆にスペインやフランスでは、結果よりもその内容が問われ、スペクタクルなフットボールでなければ、ブーイングが飛びます。
日本はどこを目指すべきなのでしょうか。結局は目標設定なのだと思います。日本人にはどうせ勝てないのなら美しく散るべきだという特有の美学がありますが、その美意識、哲学を優先するべきか、それとも談合でも外交でも取引でも勝つための作戦に徹するべきか、目標設定と合意が必要かもしれません。

 殺虫剤を散布する田んぼでは、ヤゴは生きていけませんし、害虫であれ益虫であれ、虫という虫はすべていなくなります。当然オタマジャクシやカエルのエサも少なくなっていきます。
 それから、水管理もイネだけを育てようと思えば、イネが根付いたあとは落水して他の草が生えるのを防ぎます。雨季と乾季を無理やり作り出すわけです。イネの一人勝ちをを目指す「収量至上主義」と私は呼んでいます。
しかし、うちの田んぼではそういう考え方をしません。虫も共存、雑草さえも適度に共存を目指しています。殺虫剤は一切まかず、厳しい乾季も引き起こしません。自然に、自然に、育てることを目標に置いています。
人間の科学では証明されていませんが、イネはおそらく虫や雑草と対話をしています。植物や昆虫であっても、何らかの魂のようなものがあります。それぞれの生存と繁殖のために遺伝子レベルで、外交的な取引や、妥協や駆け引きを行っていると思われます。私たち人間は、その邪魔をするべきじゃないし、田んぼの中にイネの独裁政権を認めるべきではないと思っています。
 「より健康的なイネ、より美味しいコメ」を育てようとやってきた結果たどり着いた哲学というか境地ですが、夏、うちの田んぼにだけ、殺虫剤にはとりわけ弱いホタルの群れを見つけるとき、その思いを強くします。












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