「春の嵐」2018年4月号
桜開花にあわせて種まき作業が始まります。
雪国の冬は長く、しかも雪に閉ざされていますから、草が芽を出し桜が咲き始めると明るい気分になります。何もかもが急に活動的になり、春が来た喜びは特別です。
そんな種まきの季節ですが、稲作の現場に今年は大きな変化が訪れています。
あまり話題にはなっていないのですが、今年の作付けから「減反制度」が廃止される見込みです。
「減反」とはコメの生産調整のことで、政府が「たくさん作ると米価が下がるぞ、作るな」とお触れをだして管理してきました。具体的には「コメを作らなかった人には補助金を配る。コメを作ったヤツは村八分にする」という強硬な制度です。
コメを作った人に奨励金を出すのではなく、米を作らなかった人にお金配るわけですから、本物の農家のやる気はそがれるばかり。
そもそも食料自給率が先進国で断トツで低い日本が取り組むには、矛盾があります。多くの先進国は農業大国で、農産物や食料を輸出しています。そして、世界の人口は増え続けており、アフリカなどでは栄養の足りていない人が何億人といるのです。
その50年近くも続いてきたおかしな仕組みの「減反」が今年から廃止になりました。
しかし、省庁にとってはこれは莫大な利権ですからそう簡単に手放すとは思えず、ひょっとするとカタチを変えて、または名前を変えて存続する可能性も十分にあります。
ひとまずは作付けできる農地は田んぼにすることになり、私たちは喜んでいますが、数年は先行きが不透明な状況が続くと思われます。
もう一つの構造的な変化は「種子法」という法律が、これまた廃止になることです。こちらもあまり話題になっておりません。
戦後一貫して、食料は国が管理するという方針でやってきているので、農作物のタネというのはたいてい国や県に作られた試験場が育ててきました。病気に強いもの、量のたくさん獲れるもの、味のいいもの、栽培しやすいもの、天候の変化に耐性のあるもの、そういった性質のある突然変異を見つけて、何年もかけてかけあわせ、試験を重ねてタネを採ってきました。主に公務員が取り組んできたので、規制が多く、特許が誰にあるかよりも、国や県が独占することに意味があり、一般の農家は参入できにくい仕事です。
そのルールがこの4月から変わります。おそらくは「遺伝子組み換え」がタネを育てるのに有用になってきており、その技術を公営の試験場よりも大企業が持っているためです。
この「主要農作物種子法の廃止」により、現実にタネを開発してその特許を押さえている会社の利益が大きく膨らむことになりそうです。
だって、農家が「遺伝子組み換えのタネ」は使いたくないなと思っても、市場からなくなってしまえばそのタネを蒔くしかないからです。
現に、今も多くの野菜のタネは「F1」という特殊なもの。普通のタネは、カエルの子はカエルで(ごくごく珍しい突然変異を除けば)毎年同じものが生まれてきます。
しかしF1は「トンビが鷹を産む」ように設計された特殊なタネで、鷹が産まれるのは1代限りでしかありません。生まれた鷹をタネにして蒔いても鷹は産まれず、トンビに戻ってしまいます。したがって野菜農家は自分でタネをとることが出来ず、毎年タネを購入しなければならないのです。
「減反」と「種子法」。二つの廃止がもたらす未来は、いくぶん自虐的な言いかたをすれば、農民はこれまで国家の下請けだったけれども、これからは世界的な大企業の下請けに移っていく、そんな流れなのだろうと思います。
嵐の気配と憂うつを抱えながらも、農家にとって種まきは希望に満ちた作業です。春先に蒔いたタネのひと粒が晩秋には100倍〜1000倍にもなるのですからね。
これを希望といわずになんと言えばいいのでしょう。
花粉の量も多いだろ?? そう、そうですね。今年は3月の高温で、記録的な量とか・・。確かに戸外ではもうもうと煙が舞っているようで、くしゃみ鼻水が止まりません。
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