「強さの秘密」2018年6月号

  
  日本代表、さえないですね。こんなに暗い気持ちでワールドカップを迎えるのは初めてです。サッカー好きなので、毎日サッカーシャツを着て過ごしています。今日はブラジル、今日はアルゼンチン、スペイン・・・。日本のゲームシャツ、応援Tシャツもたくさん持ってますが、なかなか積極的に着ようかなとはなりません。田んぼで会う人と「日本弱いね〜」と話題になるのは(本当のことであっても)気持のいいものではありませんので。

 田んぼのほうは田植えも一通り終わり、あとは梅雨を待つばかりとなりました。
 田植えは、苗代で葉っぱが2〜3枚にまで育った苗を、大きな田んぼに移し植えかえること。期間中はずーっと苗に触れ、運び、投げ、ちぎり、田んぼに刺し、そして対話します。よく観察してみると、過酷な環境で育った苗のほうがしっかりしています。
 今年は気温の変化の激しい春でした。例年以上に寒暖差が大きく、30℃ちかい陽気になり半袖でアイスをほおばっていたと思えば、翌日は冷たい雨でこたつにもぐりこまなきゃいけない日もあって、人間の体調管理だって大変ですが、まるっきり動けない苗はもっと大変だろうと思います。
 タネもみからここまで約2ヶ月半。身長体重が小さくともかまわない、とにかく元気で丈夫な苗に。赤ちゃんを育てるのと似ています。殺菌剤も殺虫剤も使わないので、病気にも虫にも負けない頑健な苗であること。これがわが農場の育苗の方針です。
 田植えを振り返って、苗の強さについて改めて気がついたことがあります。
 比較1つめ、ビニールハウスのような加温設備を使わないで育ててみる。
 箱にタネをまいて路地にそのまま並べるのは作業工程のうえでは実に簡単なのですが、雪の多い新潟で、しかも残雪のある中で始まる育苗ですから、そんなやり方をする農家はほとんどいません。温度や湿度の管理されたビニールハウス方式・加温方式が、まあ常識です。苗を無加温でただ並べておくというのは、赤ん坊を野ざらしで放置しておくようなものですから、通常やってはいけない措置です。
 この苗はなかなか背丈が伸びず、小さくて見た目はかなり悪いのですが、意外にも決してひ弱ではありません。踏まれても、茎が折れても、葉がちぎれても、弱る様子がありません。
 比較2つめ、荒れた土地で雑草も伸び放題のようなところに並べてみる。
 ふつう苗代はキッチリと整地します。水管理をしやすいように砂を入れて平らにならしたり、ポリシートを敷いて雑草や病害虫を抑えたりします。農業では本来、雑草は認めることのできない絶対の敵であって共存なんてありえない、というのが常識です。「雑草があるからこそイネが強い」というのは、農業の常識とはかけ離れています。
 しかし、雑草だらけで地面はでこぼこ、虫たちも来放題のところで育てた苗のほうが、不思議とやっぱり強い。セリ、つる草、スズメの鉄砲という雑草やらに混じって、負けないで力強く生きています。
 常識と現実はどうも違う・・・。どう考えればいいのでしょうか。
 私たちも農業の常識や長年の経験を無視しているわけではないんです。篤農家の知恵みたいなものをもちろんリスペクトもしています。加温せずに草むらで育てるのは、まったくの常識破りなので、おっかなびっくりで取り組んでいるのです。やっぱり駄目かな、全滅しちゃうのかなと腰が引けた状態で、やっているわけです。周りの農家からはボロカス言われます。
 それでも、雪のしたでも日照りのなかでも、死なない強いイネがあるし、雑草と競争して負けないイネもある。それはそれで現実に起こっていること。どのくらい厳しく接すればいいのか完全に理解したわけではないので、まだまだ試行錯誤は続きますが、伝え聞いた常識よりも目の前で起こっている出来事のほうを考え続けることになります。
 厳しい環境と強さの関係・・。イネも自然界のものである以上、ハングリー精神というか野生に帰るというか、そういった何かが重要なのかもしれません。

 さて、ワールドカップの日本代表。ハングリー精神は持ち合わせているでしょうか。競争原理は働いているでしょうか。日本代表にはキリンという盤石のスポンサーがついていますが、優勝候補アルゼンチンや、アフリカの雄ナイジェリア、欧州の強豪クロアチアなどはサッカー協会の汚職や財政難で、遠征や合宿の費用のねん出もままならないそうです。
 世界で戦うには日本は温室育ちに過ぎるかもしれません。スラム街からサッカーだけで這い上がってきた選手もいませんし、このところは帰化した選手も見かけませんね。
 1か月後、ロシアで予想外の好成績を心から望んではいるものの、しばらくは湿っぽい空気に包まれて過ごすことになりそうです。












HOME

Copyright (C)1997-2020 Akiyama-farm. All rights reserved.

このホームページ上に掲載されているすべての画像・文書などの無断転載を禁じます。