「 AIが変える未来 」
2018年10月号

 
  「俺が大人になる頃には、農業もAIがやるね。もうただ座ってるだけで、コメが出来るよ」
 「いやあ、どうだろう・・・?」
 この夏、高校生の息子に田んぼ仕事のアルバイトを頼みました。20年後になくなる職業、仕事はなにか、50年後もあり続ける仕事はなにか、そんなことがとても気になります。
 確かに、多くの仕事がAIにとって代わられるのは間違いありませんが、果たしてコメ作りまでAI化するのでしょうか。
 銀行は、融資の審査などをAI化して、支店業務のかなりの部分を削減する方向と言われています。また宅配便の業界も、運送トラックの無人運転が実現すれば、配送業務にかかわる多くの人たちがリストラされるのでは、と予想されています。
 宅配便業者や銀行とは日常的な付き合いがありますが、本当にあと20年もするとそのあたりの仕事の風景は一変してしまうのでしょうか。
 しかし、私の予想する未来と高校生の目に映る未来と、どっちが合っているかとなれば、私も農業の行く末を断言できる自信はありません。
 今世界中で起こっていることは、新しい産業革命だと思います。ですから、社会の仕組みや職業観や経済の流れが変わることだけは間違いありません。

 AI化が進むかどうかについて、2つのチェックポイントがあります。1つは倫理的に問題ないか、それからシステムの開発が金銭的にペイするか、です。
 たとえば、大企業で誰かを採用したり、もしくは人事査定するのに、100%AIに頼るとはなかなか言えません。なんとなく心理的な抵抗があります。人間が機械を選び使うのか、それとも機械が人間を選び使うのか、倫理的に受け入れられるにはもう少し時間がかかりそうです。
 もう1つ、開発コストが見合うかどうかですが、農業の現場での無人化の構想はかなり前からありました。先日、新潟に安倍首相がお越しになって、コンバインやトラクターの無人運転を視察されました。高齢化も進んでいますし重労働も多いので無人作業は、みな大賛成ですが経済的に合うところまで来ていません。実は20年ほど前、携帯電話が一般化してGPSの機能が知れ渡ったときに、無人トラクターの実験は始まりました。電波による通信で広い田んぼの作業を遠隔操作が出来ないか、とやってはみたものの、そろばんが合わない。生産コストを下げるつもりが逆に上がってしまうようなことが起こりかねない。それで今は、補助金をもらって何とか無人作業を実用化させようと政治的決着の方向に流れています。
 結局、人間を管理するセクションは異論がありながらもどんどんAI化していき、農業の現場のようなだれもが賛成するところでは、なかなかAI化しない、そんな状況に思います。

 北海道の地震では停電が長引いたために、乳牛の搾乳が遅れて、牛が病気になりました。畜産や養鶏は田んぼに比べて電化し、またシステム化しているところが多いです。しかし、それでも生きている牛やら鶏やらを育てている以上、コンピュータでの管理が全てにはなりえません。田んぼでイネを育てるのだって同じです。
 生命を育くむという点では、例えば人間の保育とそれほど違いはないのです。乳母がAIになりましたとか、保母さんがロボットですとか、ちょっと想像したくないですよね。
 喜んだり、ケンカしたり、泣いたり、怒ったり、笑ったり、AIも感情を学習しているにせよ、やはり生命体同士の間には特別な感情の交流があるだろうと思います。

 今年は9月に入っても異常気象が続いていて天候不順が多く、なかなか予定通りに稲刈りが進みません。ただそれでもイネはいじけているなんてこともなく、まあ落ち着いてやりなよ、と言っています。例年なら水分を落として枯れていく時期になっても、しっかりとした変わらぬ姿勢で刈り取られるのをじっと待っています。
 息が合うというか、私たち人間との阿吽の呼吸が感じられます。
 今年のイネは、厳しい環境をくぐりぬけてきたたくましくて優しいやつです。「タフでなければ生きられない。優しくなければ生きていく資格がない」
 イネのつぶやきが聞こえてくるようです。












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