「変わりゆくもの、変わらないもの」
2018年12月号

 
 
 小さなストーブに鉄鍋を仕掛けて、銀杏を10粒ほど放り込みます。揺らめく赤い炎をながめながら、静かにちびりちびりと一人で晩酌・・・。至福の時間です。人はいつから、苦いものを食べるのに抵抗がなくなるのでしょう。
 銀杏って子供の頃は、苦くて嫌いでした。アメ玉みたいだけどアメじゃない、グニュグニュした食感がグミみたいだけどグミじゃない。どうしてこんなものが大人は好きなのか、子供は首をかしげるでしょう。大人の味です。ビールだって、ほろ苦いから美味しいので、苦さを美味しいと感じるのは年齢を重ねる必要がありそうです。カキフライとか、野沢菜とか、ザーサイとか、山菜の天ぷらとか、ウイスキーとか、大人になると美味しく感じるものってありますよね。
 そういえば、僕がピーマンを食べられるようになったのは高校1年生の夏でした。アルバイト先のまかないで出てきた天ぷら蕎麦にピーマンが入っていたのです。残すわけにもいかず意を決して食べたところ、いや、思ったほど苦くない。あれあれあれ、こんなものかとなんだか拍子抜けしたことを覚えています。その日以来、ピーマンを克服した僕は、晴れて大人の仲間入り。今ではチンジャオロースは大好物です。
 銀杏をコロコロと転がしながら、菊の花の酢の物をつまみます。
 囲炉裏も火鉢も、今ではすっかり見かけなくなりました。火を見つめていると、心が落ち着きます。100年前はきっとどこの家庭にもあったはずなのに、いや、5〜60年前まででしょうか。とにかく、ついこのあいだまではあったのです。オール電化の住宅が増える一方で、薪ストーブも売り上げを伸ばしています。もしかしたらDNAに深く刻まれているのかもしれませんね、生活の真ん中に小さな火を置く、ということが。

 銀行主催の勉強会に出かけたら、外国人に不動産を売っているという人に出会いました。
インバウンド需要は、外国人にモノを売り、それから余暇やサービスを提供し、今度は不動産にまで広がってきました。
 それでも大都会のマンションではありません。物件はスキー場、温泉、それに付随する観光施設。お客さんは中国人ではなく、オーストラリア人やシンガポールなどアジアの英語圏の人たち、だそうです。そう言われると、最近スキー場では白人たちがとても多くて、4人乗りリフトや6人乗りゴンドラでも3回に1回くらいはそうした外国人と相席になります。
 しかも、1週間〜2週間と長期滞在の人が多いです。そうした人の中から新潟や長野の風土が気に入って、住み着いたり投資したりする人が出てきたのです。作家のC・Wニコルさんも信越国境の森の中で暮らしています。もともと欧米人は山や森に対する愛着が日本人以上に強いのかもしれません。
 今年、うちの農場にもニュージーランド人のアルバイトが来ました。本業はスキーで、山岳パトロールやガイド、それからスキー用具の手入れです。「夏のあいだに農業をしておくとトレーニングになっていい、冬に備えて身体を鍛えておかないとね」。彼の志望の理由です。地元の農家や職人さんには、春〜秋まで田んぼや作業現場で働いて、冬の間スキー場でアルバイトという人はとても多いです。30年来のリフト係の本業は屋根を作る板金屋さんという具合です。
 しかしニュージーランド人はその逆で、本業がスキーです。本国のスキー場、フランスのスキー場とあちこち回って、最終的に日本が一番いい、と住むことを決めたそうです。そして赤倉高原にスキー板のチューンアップの店を持ちました。「ニュージーランドって、みんな牛肉ばっかり食べてるの」と尋ねると「いや僕は肉より魚、コメも大好き」とのこと。
 田舎では少子高齢化は留まるところを知りませんから、ここに世界中から若者が移住してくるのは大歓迎です。
 日本人が失いつつある雪国の文化や山の暮らしを、ひょっとしたら外国から来た白人たちが守っていくことになるかもしれません。












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