「 水は龍のごとし」
2019年5月号

 
 日中合同探検隊を組織して、タクラマカン砂漠に行ったことがあります。30年近くまえ、学生だった頃のことです。
 中国の西域にあるタクラマカン砂漠は、オアシスのない単一の砂の砂漠としてはサハラよりも広いと呼ばれるくらいで、砂、砂、砂、どこまでも砂の続く異様な世界。とにかく水がありません。現地では「死の海」と恐れられており、一度入ったら出られない場所。人類未踏の地もありました。そこでラクダ隊を仕立てて探検に行ったわけです。
 万年雪を冠する高い山脈が、コの字状にぐるりと周囲を取り囲んでいて、そこから雪解け水が流れ出ています。しかも現地は盆地で、海抜は海よりも低いところもあるので、本来は水を満々と湛えた巨大湖になっていてもおかしくありません。が、タクラマカンに水はありません。雪解け水の大きな川も、山あいを抜けるとすぐに干上がってしまい、いつのまにか枯れ川になります。河口のない川、どこにも流れつかない川です。川というものは合流を繰り返し、次第に大きな流れになってやがては海に注ぐもの、という私の常識は、そこで完全にくつがえされました。
 
 さて、ところ変わって新潟。
 こちらでも妙高山は雪で真っ白です。目と鼻の先にはまだまだたくさんの雪があります。
下界というか、里では、農作業の真っ盛りで、耕うんして代かきして田植えと、風景が一日一日、様変わりします。山と里では時間差がありすぎて、とても不思議な感覚です。里から望む雪の妙高山は生活感がなく、まるで大きな屏風絵のようです。 
 山に例年にも増して雪が多いのは、3月の下旬以降、低温が続いているためです。この冬は暖かくて春が来るのも花粉が飛ぶのも早かったのですが、そのあと低温続きで、桜の花が2週間も咲いたままでした。花見には良くても、田んぼが乾かないのでトラクター作業はとても難儀しています。田んぼが乾かないのです。
 春の耕うんは、土を堀り起こして握りこぶし大にする作業です。「乾土効果」といって土を乾かすことで、雑菌を死滅させるとか、土中に酸素を送るとか、栽培上のメリットが得られるのです。ただし新潟は「新しい潟」という地名のとおり、もともと干潟のような土壌です。土質は粘土質でネチっとしているので、乾かすのに一苦労します。深い沼地のようなものですから、大きな農機具がズブズブと沈み込んでしまうことさえあります。逆に、完全に乾けば、肥料持ちもとても良く、稲作に適した土壌に変わります。一長一短ですね。
 新潟は豪雪地帯で水も多いので、自然と川も多く、その歴史は治水の歴史です。(私たちの使う用水路が「世界かんがい遺産」に登録されています。ほんの数分のところにある農業用水が「世界遺産」と言われても、ピンときません。(まさか、万里の長城や、ピラミッドと肩を並べる存在だなんていわれたら、噴き出してしまいます・・・)
 水のまったくないところに比べれば、水が多すぎるという苦労はぜいたくな悩みかもしれませんが、しかし水の力は本来は大きくて恐ろしいものです。平成は水害による被害が日本各地でありました。津波や豪雨や土砂崩れや、水の圧倒的な力のまえには、人間のちっぽけさを痛感するばかりです。
 
 水はどこから来て、どこへ行くのでしょう。どうして水の多すぎるところと少なすぎるところが出来るのでしょうか。これほど両極端の場所で生活したことのある人間もそれほど多くはないでしょう。もちろん知識としては、海の水が蒸発して雲に変わり、それが上空で冷やされて雨になったり雪になったり、そういうことは知っています。液体か氷か水蒸気か、形が違うだけで、地球上の水は循環するだけで総量は同じ(?)です。
 でも、世界中で砂漠化が(中国に限らず)進行している一方で、北極の氷も解けだしているとなれば、水はどこかに押し寄せてしまうことになるのでしょうか。あるところでは足りなくなって、あるところではあふれだす・・・。龍が暴れまわるところと、龍の涙で充分だから一滴きてくれないかなというところ・・。
 水の流れは世界中で2極化しているのか、それとも循環しているのか。うーん、難しい問題ですね。
 ともかく、苗代では小さな苗が冷たい雪解け水で元気よく育って、なんだか見ているだけで幸せな気分になるので、ま、それで良しとしますか。












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