「へんたい 」
2019年7月号

 
 イネもあぜ周りの雑草も、急激に伸びる季節です。茎は日一日と太くなっっていきますし、雨上がりには、背丈の伸びも著しい。土の下は直接は見えませんが、根も大変な勢いで伸びているはずです。もうほんのちょっと目を離しただけで見違えるほどに緑の姿が変わっていて、驚くことしきりです。植物をながめているだけで、生命力をこちらまで分けてもらえる気がしてきます。コンクリートのすき間からも、雑草が力強く顔を出しますね。あれはきっと、着々とミッションを完遂して、世界制覇をもくろむ謎の一味にちがいありません。

 そして、日に日に姿を変えていくのは植物だけではありません。
 この季節は、動物たちも姿を変えます。まず、オタマジャクシ。昨日まで水の中をフワフワと漂っていた「藻のような、毛玉のような、豆ちょうちん」が、陸に上がってジャンプします。
 カエルになると、どんなに小さくても動きにスピードが出てくるし、人間の目では追いかけきれないくらい立体的になります。突然、お祭りが始まったかのような騒ぎです。そのうえ、一斉に鳴きだすと、かなりやかましい。童謡ではカエルは輪唱することになっているとおり、確かに身体は小さいのに歌声はとびっきり大きいです。
 人間の想像力を超えた変身は、カエルだけにとどまりません。自然界でもっともエレガントな変身をするのは、トンボです。これは間違いないでしょう。
 幼虫のヤゴは、水の中でイネの茎かなんかにしがみついています。その水の中の虫が、ある日、脱皮!! そんで、羽が生える。編隊を組んで、飛行!! え−っ!?
 変態は、変体して、・・・編隊を組んで、飛行!! しかも複眼!!
 こんな奇想天外な変身は、後にも先にもトンボ以外はいないのではないでしょうか? しかも最終形は、超スタイリッシュです。 

 うちの田んぼは長年、多様な微生物が育つような管理をしてきているので、ミジンコやらイトミミズやら小さな生物が多く生息しています。それらはオタマジャクシやヤゴのエサになるので、今では田んぼはトンボの海です。トンボって肉食なので最強の益虫、イネにとっては理想の相棒なんです。
 幼虫ヤゴ時代にはボウフラを、成虫の飛行隊になったら蚊などの害虫をかたっぱしから食べてくれます。トンボのたくさん舞う田んぼには、殺虫剤をまく必要がありません。

 害虫を食べるということでは、カモもいますね。野生のカモが田んぼのあぜに毎年、大きな卵を産んでいます。カモが家族で飛来するというのも、うちの田んぼが居心地のいい環境なのだろうと思います。それで卵を抱きながら、虫や雑草を食べたり田んぼの中をかき混ぜてくれたり、と「勝手に合鴨農法」をしてくれています。
 丸い卵から生まれてくるのは、虫じゃなくて鳥。これも変身の生物ですね。

 それから、あぜに住む生物で私たちの味方にヘビってのもいます。ヘビは虫などを食べるだけでなく、あぜを破壊するモグラやネズミまで捕まえて食べてくれています。なので、本当はありがたいことなのですが、でも、ヘビだけは苦手なんですよね。
 晴れた日なんか、あぜで長ーくなってノンビリ昼寝しているんですけれど、人間の近づく気配を察知すると、あわててグニャグニャって動き出すんです。こっちはエンジン付きの草刈り機を持っていますから、向こうも切られちゃいけないってんで、ギャー!! その急な動きがなんだか変態的な感じですね。毒ヘビじゃない、人間のほうにも向かってこないとわかっていても、気持ち悪くって、イヤなものは嫌。
 あぜ草刈りの途中でヘビに出会ったら、もうそれ以上前に進まず引き返すことにしています。おそるおそる、後ずさりです。












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