「イナゴとスズメ 」
2019年9月号

 
 収穫期が近づいてくると、収穫量が気になります。
 農家同士の「反当たり8俵だね」「いや、俺は9俵半だ」とか、そんな会話も交わされるようになります。1反とは、耕作の単位面積で1,000uのこと。1俵とは玄米換算で60sのこと。いまだに昔ながらの単位が使われています。新聞などで毎年発表される「作況指数」は、この古めかしい数値を日本全国で計算して、今年は豊作か凶作かを説明しています。
 私たちにとっては、もちろん収穫量は多いに越したことはないのですが、お天気仕事ですし、「豊作貧乏」という言葉もあるくらいですから、豊作だからといって大儲けとはいきません。

 「なんか今年、イナゴが多いな。」
 「人が近づくとワ―ッと飛び立つ。びっくりするなあ、もう。」
 「気配を感じるのかな。触角? 音を聞いている?? あ、目がデカいか・・・。仮面ライダーの目だ。あれで見てるんだな。人間が来たぞ、逃げろ!!」
 「イナゴの目、大きい。仮面ライダーも、顔の半分が目だから、良く見えるのかな。」
 今年は田んぼにイナゴ、確かに、たくさんいます。殺虫剤をまかないのですから、ホタルのいるところには、イナゴがいてもおかしくはないので、文句を言う筋合いもないのですが・・・。
 「ここ、クモに捕まってるぞ。いいぞ、クモ。どんどん行け。イナゴをやっつけてくれ。」
 「イナゴ・・・嫌われ者だね、仮面ライダーのくせに。」
 「捕まえて佃煮にして、売るか?」
 「イナゴの佃煮、オレなんか苦手・・・。長野だと普通のスーパーで普通に売ってる。今でもみんな食べるんだね。」
 「昔のタンパク源っていうけど、そんなにタンパク質あるの? 肉じゃないんだし、虫だよ?」
 「いや、虫ってのが案外いいらしいよ。あの、殻があるでしょ。あの殻じゃないかな。」
 「甲殻類? じゃあ、カブトムシとかクワガタとかも栄養豊富ってこと? 食べると固そうだ。」
 「たぶん成虫じゃなく幼虫ならいけるな。あの白いカブトムシの幼虫。似たようなの、東南アジアで食べた。ピリ辛でニンニク風味に揚げてあって塩とレモンを振って、ビールのつまみ。結構うまい、白い芋虫。ハハハ。」
 イナゴ、確かに多いのですがこのくらいの数じゃ減収にはなりません。しかし、勝手なもので大事に育ててきたイネの葉っぱを食いちぎられるのは、どうも気に入らないのです。
 「イナゴが好きなのは、イネの葉っぱのまだ生きてる元気な部分。困っちゃう。」
 「殺虫剤を使わずに、これ退治するにはどうすればいい? 天敵は? ヘビかカエル? もうイナゴのほうが、ヘビなんかより速いなあ。ピョンピョン跳ねるし。」
 「もっと若くて柔らかくて美味しそうな草の生えているところが、もし近くにあれば、大挙してそっち行くんじゃない??」
 「おう、それだ、天国の草むら作戦。これから、雑草のタネでもそのへんに蒔いてみるか?」
 「鳥はさあ、バッタを食べないのかな。何してるんだ、鳥は? ミミズもいいけど、殻つきも虫も美味いぞ。食わず嫌いは良くない。鳥の皆さん、昼食にはイナゴもぜひ。」
 「いや、スズメはダメ。スズメだけはダメ。奴らには来て欲しくない。」
 「スズメ、集団でやってきて穂をつつく、つつく。しかもモミの中がミルク状になってるときに! イネの大事な時期なんだからこっちこないで、落ち穂でも探してりゃいいのに。」
 「かかしとか、キラキラ光るテープとか、浮き輪とか、スズメ除けにいろいろやってるけど、効果があるようにちっとも見えない。人間の負けだね。」
 「で、大群に襲われたら一瞬で一網打尽。」
 「スズメって、田んぼ1枚だけ集中して襲ったりするんだよね。あれ悲惨・・・。」
 「ピヨピヨって、人畜無害そうな顔をしてるけど、スズメって害鳥。えげつない団体行動。とんでもないな。」
 ようやく猛暑が過ぎたと思ったら、今度は長雨。一難去って、また一難。
 それで、イナゴとスズメに手を焼いているんですから、進歩がないと言えば進歩がないし、これが人間の営みだといえば、そりゃそうだとうなずくよりほかありません。
 右往左往と落ち着かない人間を横目にイネは色づき、少しづつ首を垂れてきました。












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