「僕らのコシヒカリはどうなるのか」
2019年10月号

 
 この秋は、田んぼ風景がいつもと違いました。
 新潟はコシヒカリ王国で、新潟といえばコシヒカリ、コシヒカリといえば新潟、というくらい、コシヒカリというコメは新潟の代名詞でありました。そのコシヒカリの作付けが、ここ新潟でこのところ急減しています。
 例年であれば、秋に入ると田んぼは一面、黄金色に染まった海のような景色となるのですが、今年はまったくちがいました。黄色と緑のモザイク模様となっていたのです。
 田植えをする時期には、イネはまだとても小さくて、ちょっと見ただけでは品種の違いがよくわかりません。ところが、夏を過ぎると、草丈の長さ、茎の太さ、葉の厚み、株の大きさ、葉っぱの色の違いなどから、品種の違いが分かるようになります。やがてそれは、それぞれの登熟の時期が変わるために、9月の半ばの姿や色に決定的な差となってあらわれて、あるものは黄色く熟れて稲穂は首をたれているにもかかわらず、すぐ隣の田んぼはまだ光合成の最中で真っ青、ということになります。
 2色のモザイク模様の理由は、そういうこと。コシヒカリと熟期の異なる品種が大量に作付けされていたのです。
 うちの作付けは、以前と変わらずコシヒカリが絶対の品種ですし、もちろんお客さんからの圧倒的な支持もありますから、他の農家や農場がコシヒカリ以外の品種をなぜ栽培しているのか、よくわかりません。
 ただ、大幅にコシヒカリの作付け面積が減っているのは、一目瞭然です。考えられるのは、他の人たちが栽培しやすい品種を選んでいるのでないかということ。収穫量の多い品種を選んでいるのではないかということ。それから、何らかの作為によってコシヒカリ以外への誘導があるのではないかということ。理由を探ればそんな感じでしょうか?
 そもそも、コシヒカリはとても作りにくい品種です。はっきり言って、栽培品種としては「出来そこない」に近いです。茎は細く、それでいて草丈は異様に長くて、株元は弱々しい。実るほど頭を垂れる・・・どころか、しまいには横に倒れてしまいます。
 寒さに耐性がなく冷害を受けるし、夏の暑さにも弱くて高温障害にもなる。葉っぱは柔らかいので虫に食われやすく、病気にも極端に弱い。単位面積当たりの収穫量だって多いほうではありません。「生き物」としてみれば、かなり生存が厳しい品種です。また稲作農家にとっても、最も作るのが難しい品種です。
 しかし、それでも多く農業者がそんな厄介なコシヒカリを作ってきたのは、何と言っても「食味が良いから」。北陸で生まれたコシヒカリに、その弱点を補う品種をかけあわせて、日本全国南から北までコシヒカリの亜種が育てられてきました。「あきたこまち」「ひとめぼれ」といった有名な品種も、コシヒカリの子や孫にあたります。日本中で栽培されている品種の9割が、コシヒカリか、その親戚といわれたほどです。
 今ではこのキング・オブ・ライスは海外でも栽培されていて、欧米では「Koshihikari 」、アジアでは「越光」となって、世界的な銘柄に飛躍しました。
 新潟は、そのコシヒカリの本家本元ともいえる場所なのに、作付けが減っているのです。農業者の高齢化や人手不足といった構造的な問題が、美味しい品種から育てやすい品種への切り替えを望んでいるのかもしれません。

 もう一つ忘れてはならないのは、国際的な問題です。
 9月の安倍・トランプ首脳会談で、日米の貿易交渉に一定の決着を見ました。「アメリカ産米の日本へ大量流入を阻止。農業関係者には安堵が広がる」と報道されています。コメについてはともかく、牛肉やら家畜の飼料となるトウモロコシやら、アメリカ産は攻勢をもって押し寄せることが決まりました。「アメリカ・ファースト」のトランプさんが、日本に農産物を押し売りするのは当たり前です。
 コメだって玄米や白米が入ってこないからといって、安心はできません。安心してはいけません。報道を鵜呑みにすれば、現物のアメリカ産のコメは入ってきません。が、別な形で着々と日本の農業を支配しようとしています。
 絶大な人気とシェアを誇ったコシヒカリに代わって、この農業地帯で栽培面積を増やしている品種は、おそらく外来種、または外来種との掛け合わせです。
 アメリカ産のコメの種子は、アメリカの巨大企業がその特許を握っています。
 日本ではこの2年のあいだに、50年も続いた減反制度が廃止され、また種苗法の改正もありました。大きな大きな変化です。これは日本の農業自体が、グローバル企業の傘下に入っていくことを進める流れです。
 もちろん私は、減反を続けろとか、日本は鎖国しろとか、グローバル企業は悪だ、と言っているわけではありません。私は単なる農業者でしかなく政治家ではないので、国際問題を解決するすべを持っているわけではありません。世界の流れを変えることはできません。
 ただ懸念があるとすれば、この外来の特許で守られた種子は「遺伝子組み換え」の技術が入ってるということです。
 遺伝子組み換え食品は危険だと決めつけているわけではないのですけれど、まだまだ実験が必要な段階であろう、と思うわけです。
 私たちの農地でこんなにも広範囲に、その実験を静かに進めていることに、何となく不安を感じるのです。
 日本のコメ作りは計画経済です。すなわち、お上より品種の選定、栽培面積、出荷方法まで、指導がありますし、補助金の分配もあります。

 これから、コシヒカリはどうなって行くんでしょう? 在来品種の多くがそうなったように、絶滅の運命なのでしょうか? 稲刈りをしながら、そんなことを考えました。












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