「南蛮渡来」
2020年3月号

 竹久夢二の絵に『南蛮渡来』という絵があります。(作者本人は『邪宗渡来』とタイトルをつけていますが、私は勝手に「南蛮渡来」と呼んでいます。)
 バテレンと呼ばれたキリスト教徒が日本に上陸して来て、笛を吹きながら和服の女をたぶらかす、といった情景を描いたものです。はしゃいでいる海辺の女たちは、見方によってはちょっと媚びていて、私にその変わった笛ちょうだいよ、あなた達、ビー玉かなんか持ってるでしょ、あたしに見せてくれない、とおねだりしているようにも見えます。画面は、墨を基調とした色だし、人気の少ないうら寂しい湾がモチーフなので、暗い絵になりそうなところ、夢二の画才がそれを華やかな光景に変えてしまいます。
 どうしてこれが南蛮渡来でなく、邪宗渡来というタイトルなのか。明るいイメージでなく、邪宗という言葉を使ったおどろおどろしいタイトルなのか、見れば見るほどわかりません。
 夢二の生きた時代は、和服を着ていた人たちが洋服に変わり、頭は手ぬぐいかぶりだったのが帽子に、足元は、下駄や草履から革靴へと、変わった時代です。コーヒー、牛乳とか、すき焼き、コロッケとか、人々の生活の中に溶け込み始めました。外国の文化と日本の文化を混ぜていくこと、「和洋折衷」を国を挙げて推進していた時代です。ファッションリーダーの一人であった夢二は、世の中の移り変わりをどんな目で見ていたのでしょうか。

 学校が1ヶ月休みになりました。新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、とのことです。
 我が家でも子供に聞いてみたところ、授業はともかく部活も一切なし、というのはなんだかなあ、とのこと。・・・確かに。近隣には一人の感染者も出ていないし、そもそも中高生は体力が充分にあるし、恐ろしいとの実感はないでしょう。
 私の記憶をたどっても、こんなに全国の学校を閉鎖したなどということは、ちょっとなかったような気がします。大変な非常事態です。
 ただ、昔と違うのは、今はインターネットがあっていろいろな情報が入手できてしまいます。
アメリカでいま大流行している旧来型インフルのほうが新型コロナよりも致死率も感染力も高い、とか、そもそも発生源の中国では武漢を除いて、おおかた抑え込みに成功し収束に向かっている、とか。ネットのニュースなので、どこまで本当かはわかりませんし、もちろん医学的な判断はつきません。
 しかし、ややヒステリックな感覚があるとすれば、それは新型コロナというよりも、中国や中国人に対するアレルギー、拒否反応が大きくなっているせいのような気もします。
 国内のイベントは次々と中止に追い込まれ(Jリーグも延期です、悲しい・・)、外国からの観光客を締め出すような風潮は、時代をやや巻き戻しているようにも思えます。
 ちょっと大騒ぎしすぎじゃないのと感じるのは、私が日常的に電車にも乗らない、人と交流の乏しい田舎に住んでいるからでしょうか?

 夢二の時代とは比べ物にならないほど、ひと・カネ・ものが飛び交う時代となり、国境が意味をなさなくなりつつあります。邪宗の渡来なのか、南蛮渡来なのか、見極めの難しい局面ですね。
 イネはもちろん、日本人の生活に深く入り込んでいるものの多くが、海を越えて渡来してきたものです。唐ガラシや胡麻、キュウリ(胡瓜)、は読んで字のごとく中国から来たものです、カボチャは南瓜と書いて、カンボジアが名前の由来。ジャガイモも、インドネシアのジャカルタがその由来・・。玉ねぎやキャベツは、もちろん舶来の品。トマトは南米アンデスが原産、麦はメソポタミア、ニンジンはアフガニスタン・・。
 その多くがまだ日本に渡ってきて数100年ですから、大昔の日本人は何を食べていたのでしょう? 日本列島に元からあったものなんて、何があるのだ? という感じです。 
 南蛮の「蛮」という字は、野蛮人とか蛮族とか、あまりいい意味で使われませんが、食べものを指すときには少し意味が変わります。九州にある唐揚げ、チキン南蛮。美味しいですね。おそば屋さんにある、鴨南蛮。あれ好きだな。カレー南蛮というのもあります。あれ、とても懐かしい味がします。












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