「うつむき加減の春ですが・・・」
2020年4月号

  コメ作りは、ひとまず始められそうです。
 広々とした屋外の下での作業は、感染の拡大にはつながらないようですので、当初のスケジュール通りに、私たちは種まき作業に入る予定でいます。
 延期だ、中止だ、自粛だ、閉鎖だ、そんな声に気が滅入りそうではありますが、今のところ、新型コロナウィルスは農業には悪影響を及ぼすに至っておりません。スケジュール通りに進められる業種も、このご時世ですからそんなに多くないのではないでしょうか。ありがたいことです。
 しかし農業という業種は、ウィルスとか細菌とかに実はとても神経を研がらせているのです。以前にアジアで流行したSARSも、動物を媒介した感染経路だったといわれていますし、鳥インフルエンザなんて、まさにそうです。人里離れた養鶏場を閉鎖、完全に隔離し、全身防護服に固めた衛生班が来て消毒をする様子は、農業に従事する身には胸が締め付けられるものでした。O-157のような食中毒が流行したときも、食品に関係する者としては、身につまされる思いがしました。
 今回の新型コロナウィルスは、家畜や植物、農作物には(現時点では)影響はないようです。その点では少しホッとしています。

 それでも何となく違和感があります。いや、違和感というよりも既視感でしょうか。これはいつか見た風景なのではないか、どこかで聞いたことのある状況なのではないか、ということです。
 オタク的な趣味になりますが、笑わないでください。私は昔からボードゲームが好きで、これまで麻雀や将棋、モノポリーなどに、ずいぶんはまりました。
 いろいろと手を染めるのですが、そのなかの一つに『パンデミック』というものがあります。ここ10年ほどのあいだに急に人気を博すようになったボードゲームです。(このゲームをご存知でない方は、外出自粛の多いこの機会に、どうぞご家族でやってみてください。アマゾンなどで簡単に購入できます。)
 このゲームの斬新なところは、対人ではない形式だということです。通常のボードゲームは、人間対人間。つまり、相手の王を奪い合うとか、陣取りゲームになっているとか、どちらが先にお金持ちになるかとか、いずれもプレーヤー同士で競います。ところが『パンデミック』というゲームは、プレーヤー同士は全員が仲間同士。協力しあって、全世界で止めどなく増えていくウィルスの拡散と戦うのです。ゲームの根幹は、人間チーム対強力ウィルス。世界地図の盤面上をウィルスは爆発的に広がります。人間の手に負えないくらいに感染が拡大したら、人間チームの負けになります。
 私はこのアメリカ発祥のゲームで、「パンデミック」や「エピデミック」といった言葉を初めて知りました。またエボラ熱やインフルエンザの感染拡大の様子も、深く知るようになりました。おもちゃ屋さんで買えるただのボードゲームです。でもこのゲームの世界観と、今まさに世界で起こっている何万人もの人が死に至る感染症の現実とは、はなはだ不謹慎だと重々承知しておりますが、うっすらと重なって映ります。
 中国の武漢→イラン→北イタリアと、発生源が拡がり次々と移っていくさまは、ゲームのシナリオにそっくりで、身震いします。ゾッとします。
 今後は、疫学の専門家が、新型ウィルスがどういう性質のものであるのかをおいおい解明していくことになるのでしょうが、もしかするとこのあたりにも規制線が張られて、自粛となるかもしれません。イヤな予感が的中しないことを心から祈るばかりです。

 幸い、私たちは仕事に取り組むことが出来ます。青空の下で体を動かすことが出来ます。
花見もままならないうつむき加減の春ですが、それでも音楽のボリュームをいっぱい上げて、軽トラで田んぼを駆けまわりたいと思います。
 音楽はいいですね。不安なとき、その気持ちに寄り添ってくれます。前向きに行こうと思うとき、小さな決意の背中を押してくれます。












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