「がんばれ!温泉
2020年10月号

  ある日、「あれ、閉まってるよ。えっ!? なんでやってないの? 定休日じゃないはずだし・・・」 別のまたある日、「良かった良かった。今日はやってるね」 「いらっしゃいませ。日帰りですか。ありがとうございます。諸般の事情で、露天風呂、岩盤浴、レストランのほうは閉鎖しているんですけれど、それでもよろしいですか?」 「え〜? そんな〜」
コロナの影響で、近隣の温泉が苦境に立たされています。お客さんもすごく少ないし、休業や営業時間の短縮もあるようです。政府の打ち出したGoToキャンペーンで客足は戻りつつあるようですが、それでも経営は相当大変だと思われます。
 「すみません、熱を測らせてくださいね。マスクをお忘れの場合は、フロントで50円で販売しておりますので、そちらを必ず着けてください。館内はすべてマスク着用でお願いします。こちらに消毒液がございますので、入館前に手指の殺菌を充分にお願いします。それから、大変に申し訳ないのですが、入館リストのほうにご住所とお名前を記入していただけますか。本当にイヤだと思うんですけれど、代表者の方、おひとりで結構ですので、ご協力をお願いします。」 クラスターを出してしまうと、新聞などに大きく報道されてしまうので、運営する側も必死です。本来、温泉に来るのは、手足を伸ばして、心身をゆったり緩めるために来るので、あまりカッチリとした雰囲気はそぐわないのですが、状況を考えると仕方がないのでしょう。だだっ広い館内で、笑い声もないなか、粛々と黙々と目的地に向かって進みます。脱衣所でもマスクを着けたままです。

 新潟には、海もあるし山もあるので、風光明媚な温泉がたくさんたくさんあります。温泉が市街地にあることは少ないので、ドライブがてら、道中の景色を楽しむこともできます。美味しいものだって、セットでもれなくついてきます。温泉といえば、群馬県や長野県、大分県などを連想する人も多いと思いますが、新潟だって結構やるんですよ。私たちにとっては、貴重なレジャーの一つ、そして豊かな文化の一つです。
 夏、汗を流したあとの生ビール。小ナスの漬け物なんかをつまむと最高です。秋、紅葉。本を何冊か持ち込んで、風呂と畳の部屋を行ったり来たり。骨休めをします。頭のなかがスッキリします。冬、大量の雪を見ながら入る露天風呂。至福です。もう自分が映画のワンシーンになったかのよう・・・。そして春、春は何だっけ? お、そうそう、残雪と新緑。山菜の天ぷらにタケノコ汁。緑が増えてくると、私たちもエネルギーが湧いてくる感じがします。
 温泉の魅力、語りだすと尽きません。私たちのところは、こうしたことが身近にあって、年がら年中、とても手軽に楽しめる地域なのです。
 ところが、この突然の騒動です。とても心配です。
 温泉の経営は、旅館やホテルは家族経営、それ以外はすべて第3セクターです。
 家族経営なら、政府からの各種給付金やら緊急融資やらでなんとかつないでいるのでしょうが、どのくらいまで持ちこたえられるか。3セクがやっているところは最初から赤字のところも多く、その存続は、稼働率や入館者数で決まります。いずれにせよ、お客さんが来なければ、廃業や閉鎖に追い込まれることになるのでしょう。今はその曲がり角にいます。
 地元の温泉文化をこよなく愛する者として、何とか出来ることはないものでしょうか。

 飲食店もおんなじです。これは新潟に限らず、都市部でも起こっていることでしょう。
 地元のみんなから愛された昔ながらの味が、街から消えつつあります。東証1部上場企業とかグローバル企業とかの大きな資本の店ならいざ知らず、いわゆる老舗と呼ばれるところや、普段使いの小さなお店が、ピンチに陥っています。一度消えたらもう復活のできないお店もあるでしょう。愛着のある味も、ふるさとの味も、今その危機にさらされています。そこの場所に行かないと食べれない懐かしの味、これを食べて育ってきたのだという地元のソウル―ド、そういうものが本当に無くなってしまっても、いいのでしょうか。街のなかがすべて全国チェーンの店だけになってしまっても、いいのでしょうか。
 これは経済の問題ではなく、食文化の問題です。実家のそばにあったあの店、いまどうしてるだろう? 大学生のときに足繁く通ったあの店、まだやってるのかな? 誰にでもそういう大切なお店が一つ二つあるはずです。

 温泉も飲食店もどうするべきか、はっきり言って私にはよくわかりません。心のふるさとがこの世から消えてなくなってしまわないことを祈るばかりです。ここだけは、というお店には、コロナの渦中とはいえ、出かけていって、気持ちの整理をつけておく、そんなことを心掛けるくらいしか、やれることが思いつきません。












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