「風 景
2020年11月号

   毎年、収穫の時期には、新米に稲穂を同封してお送りしています。
 お客様より意外な感想をいただきます。
 「これがおコメなの? 毎日食べてるあのおコメ?」 コメの正体に初めて触れた小さなお子さん。思わず稲穂を学校にまで持って行ったとのこと。普段は白いツブツブしか目にしないので、よっぽど感動したのでしょう。
 また別のご家庭でも、お子さんを喜ばせた驚きの瞬間があったようです。「玄関先に置いておいたら、スズメが寄ってきてみんな食べちゃった。鳥は美味しいものを知っているんですね。」 庭先で小鳥が夢中になってモミをついばんでいるのを見つけて、子供さんのなかに愛らしい情感が湧いてきたのですね。見守る親御さんの微笑ましい光景が目に浮かびます。私たち農家からしたら、スズメなんてのは、許そうとしても許すことのできない憎き怪鳥ですが、自然界では私たち人間のすぐそばにいる身近な鳥ですものね。
 また高齢の方より「稲穂ってきれいですね。床の間に飾らせてもらいました。」意外な稲穂の使われ方に、恐縮してしまいます。
食べるおコメだけでなく、その途中の過程の稲穂までもが、お客様のところに新しい話題をお届けできたようで、生産者としてとてもとても嬉しく思います。

 稲穂を「モミ」+「ワラ」に分けます。これは脱穀という作業です。
昔は、稲ワラは農村における貴重な資源で、縄をなったり、草鞋に編んだりしました。近所には、今でも縄ないの達人の古老がいます。冬場の仕事だったようです。また稲ワラは畳の芯にも使われています。刻んで壁塗りの材料にもなったり、建材としての用途もありました。今ではロープは、ホームセンターで買ってくる化学製品ですし、ビーチサンダルだって100均で売っているウレタンのような素材に変わりました。畳だって発砲スチロール製になっているものも多いようです。稲ワラは生活雑貨や建材としてはもう使われなくなりましたが、園芸用の資材として現在でも第1級の用途があります。
 うちではコンバインで細かく刻んで、翌年以降の有機肥料として田んぼに戻しています。

 田んぼに戻すといえば、もう一つは「モミがら」。
 モミがらとは、モミの表面にある殻のことで、茶色い玄米を包んでいるもの。「モミ」→「モミ殻」+「玄米」です。ご家庭でも、脱穀したモミをビンに入れてすりこぎのような棒でつつけば、簡単に分離させることが出来ます。
 モミ殻は、稲ワラ以上に重宝される資材で、園芸や土木建設の現場で実際かなり使われています。うちでは、これも田んぼに全部戻してしまいます。田んぼから出たものは、米粒以外は全部戻すということです。ただしモミ殻は、重さは軽いものの、かさがたっぷりあり、運搬や散布は大変です。玄米と同じだけの分量があるので量もあります。丸いスイカを切って食べると、皮の部分が案外多くて、可食部分と廃棄部分が同じくらいで、という感じがありますが、それに似ています。結構な量があるのです。
 モミ殻は、ガラス繊維のような成分で出来ており、硬くて分解されにくいといった特徴があります。もちろん数年かけて、やがては土に変わりますが、ワラや落ち葉と違って、組成上なかなか溶けていきません。また形状が、中身をくりぬいたレモンみたいな格好なので、内側に空気や水を抱いておくことが出来ます。これを田んぼにすき込むと、根のそばに空気や水が常にある理想的な土壌の状態を保ってくれるようになるのです。

 おコメを食品として見ると、美味しいとか味がしないとか、値段が高いとか安いとか、わかりやすい視点になりがちです。ですが、おコメは田んぼというところで作られていて、田んぼのイネはいろんなものの循環によって育っているということがあるのです。しかもそれは長い年月、とても長い年月をかけての循環です。コメが風景までも作ってきました。
 「コメ作りは土づくり」ともいわれるので、1年2年で出来るものではありません。

 「No Rice, No life」 おコメなしでは、生活じゃない。コメが無ければ、人生じゃない。 ノーライス、ノーライフ。 今号は、おコメにまつわるエトセトラ、でした。












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