「12月の調べ
2020年12月号

   「新潟県の上越市、板倉区、・・・」と言いますと、「えっ、区? 区ってめずらしくない?」と聞き返されることがあります。確かに、言われてみるとめずらしいかもしれません。
 住所地名に○○市○○区ってつくのは政令指定都市が多くて、名古屋市熱田区とか、大阪市浪速区とか、横浜市港北区とか、そんなの都会的なイメージがありますね。
 私たちの上越市は、県庁所在地ですらないただの地方都市ですし、ほんとうに田舎です。意外なところに「区」があるんだなあ、と驚かれるのも無理はありません。
 どのくらい田舎なのか、知ってもらおうかなあということで、ちょっと比べてみました。○○区といえば、日本を代表する行政単位は東京23区、その東京との違いです。
 東京23区で、人口が一番多いのは世田谷区。95万人ほどが住んでいるとのこと。いっぽう、わが板倉区は、7,000人弱。で、面積はというと、一番広いのは大田区で、約60平方キロメートル。ひるがえって、わが板倉区は、大田区よりも1割広い約66平方キロ。
 つまり、人口は世田谷区の100分の一以下で、面積は23区のどこよりも広いということ。どうでしょう、何となくイメージはつかめましたか。ちなみに区内には、コンビニは2店舗、信号は約10個しかありません。とにかく、人は少なく、田んぼと山だけがいっぱいある、そんなところです。同じように○○区と名乗っているものの、行政の単位として同列に語るのは、はっきりいっておこがましいというか、別の国と言ってもいいほどです。そもそも、まったく違う別の国だと言われても、納得できてしまうレベルの差です。

 どこの家にも、雨戸がありません。
 どうして雨戸がないのかと言えば、理由はいくつかありまして、まず、見知らぬ人が歩いていないから防犯上、まったく必要ないということ。それから、台風が来ない。地理的な関係で台風の通り道には、なぜかならないために、窓ガラスが割れるような暴風雨もないということ。
 そして一番の理由は、豪雪に耐えるために1階の窓にはすべて、頑丈な木枠で細工をします。そのために雨戸がないほうが都合が良いということ。

 そんなわけで、戸外の音が、昼だけでなく夜も遠慮なしに屋内に入ってきます。
 その音が、都会と田舎では決定的に違います。
 駅のアナウンス、横断歩道の信号が変わったときのメロディ、お店から流れるクリスマスのジングルベル、時に右翼の街宣車の太い声、・・・。騒々しくもあれば、華やかでもあり、洗練された都会が生み出す音。
 私たちの生活圏に、そういう聖者の行進の音は一切ありません。
 私たちが普段耳にするのは、もっと牧歌的な音。田んぼに囲まれたなかで聞こえるのは、大自然が奏でる音ばかりです。
 満天の星空の夜、どこからかシーンシーンという音が聞こえます。
 細かいの雨の日には、草や木の浴びる命のシャワーの音が聞こえてきます。ポタリポタリとやわらかい音を奏でます。熱帯のジャングルに響くような生命力に満ちたときもあれば、この世のあらゆる哀しみを受け止めるような慈愛の雨だれのときもあります。
 ストーブにのせたやかんから、暖かい湯気の静かな音が立ち上ります。夜も更けて雨が雪に変わるころ、ジャリジャリ、カリカリとちょっと硬質な音楽に変わります。
 はるか遠くに雷が鳴り、ただならぬ気配と、何かの予兆を知らせます。
 深夜、ふとんの中で聴く雪の調べ。雪はすべてを飲み込みます。ありとあらゆる音が消えてなくなり、耳をすませても耳をすませても、恐ろしいほどの静寂。圧巻です。
 もし寝床でふと、果てしない森に迷い込んだような、深い海にもぐっているような、そんな不思議な感覚に襲われたら、それはきっと綿のように包む雪の調べのせいなのです。

 カラフルでにぎやかな世界も日本。モノトーンで物音一つ存在しない世界も日本。冬はとりわけ対照的ですね。











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