「姿もかたちもないけれど・・・
2021年3月号


確定申告の季節になりました。うちでは会社の決算も重なります。
小さな農場なので、田んぼに出て草取りをしたその手で、帳簿をつけてパソコンで税金の計算もします。日々のお金の出入りを点検したうえで、バランスシートを作らなければなりません。日本語では「貸借対照表」といいますが、なんだか途端に難しくなりますね。
ご存じのない方に一応、簡単に説明させていただくと、今あるものと借りてるものを比較して、本当の持っているのはどれだけか、という一覧表にするわけです。
本棚に、本が20冊ある。図書館から借りている本が8冊、友達が貸してくれたマンガが2冊とすると、なあんだ、あなたの本は20−(8+2)=10冊ね、ということです。「資産」−「負債」=「純然たる資産」です。
決算書の「資産」の欄には書き込むものは、現金と預金に始まり、土地や建物、トラクターやコンバインといった農機具、なんかが入ります。
実はルール上、お金で買ったものは、ほぼすべて「資産」に入るので、在庫として持っているコメや味噌、ダンボール、うちにはありませんが牛馬や果樹の木も「資産」です。
で、「おやおや」って思いませんか。
現金や預金はまあ、資産だね。でも、こんな田舎の土地は本当に資産か。そもそも農地って誰にでも売れるものではないし、仮に売買できたとしてもいくらになるのか。
ましてや牛馬やミカンの成木が30本あります、この馬は子供を産むしよく働きますよ、おいしいポンカンがわんさとなりますよ、といっても、そうそう換金が成り立つとは思えません。
決算をするたびに「なんだか変だな」という感覚を私はずーっと持ってきました。それでも、これは簿記会計のルールであって、銀行も税務署もこのルールに沿って作られたバランスシートをもとに判断を下します。
もちろん銀行などは、換金できないものや計算しにくいものを除外して、独自の自分たちが見やすい表に作り直す作業はしているでしょうが、それでも違和感が残ります。

毎年毎年、決算だ、確定申告だと言って、丁寧に計算しているのだけれども、どうも一覧表にして出てきたものと、自分の中にある実感に差があるわけです。
つまり、このバランスシートは経営の実態を示しているのか、という疑問です。バランスシートは、農業の実態とはかけ離れた異質のものではないのか? 外から見て農業はわかりにくいとよく言われる、もうからない産業だともいわれる、本当にそうなのか? このあたりがよくわからないのです。
で、このことを他の人に言葉でも数字でも説明できないので、何とももどかしい。「農業は簿記では測れない」なんて本音を言おうものなら、「だから農業はダメなんだ、計数で管理するんだ!」と切って捨てられそうです。
どなたか、農業の実態を数値で見える方法を考えてくれませんか。農業を正しく計測し判断出来る物差しが欲しいです。カルテに書かれたものが正確でないのに、どうして正しい治療ができるでしょう。
20年以上前です。「地力」が含まれていないぞ、と思いました。農業にとっての富が、農産物を作り出すことであるなら、トラクターの性能や年式よりも、重要なのは地力です。いい生産物を生み出すのは、土が持つ自然の力です。
農地の面積を重視する見方は、秀吉の太閤検地の頃からありますが、それは生産物の質とは関係ありません。飽食のニッポンで農業をするということは、一定の品質を約束しなければなりません。
地力は、資産ではないのか。豊かな土地こそが、富を生む源泉ではないのか。これまでうちでは、ホタルが生息しトンボの飛び交う田んぼを、作ってきました。それでも、雑草の一本も生えない農薬漬けの田んぼと、書類上の数字に違いを見つけることができません。
長い期間、こういう納得のできない違和感を感じていましたが、最近「無形資産」という言葉を見かけ、これだ、と思いました。
目に見えない資産は「無形資産」。この考え方に少し救われています。
通信販売をしていく上では、素晴らしいお客様というのも、無形資産です。人間しかも大切な方々を資産という呼ぶのには、はっきり言って語弊がありますが、それでもお客様に食べていただいてこそ作る意味があるので、銀行預金や農地よりも重要な存在、ということになります。素晴らしいお客様なくして、農場経営はあり得ないのです。

いま、無形資産とは、ビッグデータのことを指すのだそうです。確かに、私たちのあるゆる生活・動きは、GAFAを初めとする一部の私企業に伝わっています。
今、誰がどこにいるのか。ネットで何を調べているのか。友達や付き合う相手は誰か。いくら稼いでいくら使って、いくら所有しているのか。
生活のほぼすべてといってもいい情報を、ごく一握りの人が、集めて押さえて、のぞき見ることができます。
その膨大なデータは、紙で集める資料ではなく、デジタルなデータなので保管のための費用も大して掛かりません。コロナのパンデミックで、リモートワークの増えている環境では、情報を持つ者と持たざる者の格差は拡大するばかりです。
IT企業のなかには、赤字決算を何年も繰り返しているにも関わらず、株式市場で株価は上がる一方、なんていう事例も珍しくありません。ビッグデータは、バランスシートでは無形資産「0円」なので、その経営の実体が反映されないのでしょうね。
古代の昔から続いてきた農業と、今をときめくIT企業は「無形資産」というキーワードで、ゆるーくつながっているかもしれません。



2月末頃、朝日が春の色になった

2月末頃、朝日が春の色になった

田んぼの雪も勢い良くとけています



春の最初に顔を出す。ふきのとう

ふきのとうの出る水路の土手





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